番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-3


「・・・っ、こほっ、・・・!」


徐々に黒煙が晴れていく。埃っぽい空気に咳き込みながら辺りを見ると、映画館の出入口が瓦礫で塞がれていた。


何これ、爆発?


映画館の中じゃない。きっとここで爆発したのなら、私は無傷でなんかいられなかったはずだから。



怖い。


非常灯だけがどうにか辺りを照らす。大きな怪我をした人こそいないみたいだけど、周りから聞こえる不安げな声が私の中の恐怖を煽る。



その時、出入口の付近の瓦礫が僅かに崩れるような音がした。


反射的に音の方に視線を向ける。










「・・・・・・・・・・・・・・・っ、じん・・・ぺい・・・?」


煤で汚れた頬を拭いながら、その瓦礫の隙間を抜けてきたのは他の誰でもない、陣平だった。






「なまえ!お前怪我は?!」
「っ、」


私の声に気付き駆け寄ってきた陣平は、勢いよく私の両腕を掴んだ。


その力の強さに思わず眉間に皺が寄る。そして気付いてしまった。




「・・・・・・っ、陣平・・・、手、血が・・・」
「ンなのかすり傷だ。お前も他の奴らもデカい怪我はねェな?」


陣平の手のひらには、血が滲んでいて。きっとあの瓦礫で怪我したんだろう。


そんな怪我なんて気にする素振りなんて少しもない彼は、素早く周りの状況を確認する。





なまえの声を聞いた瞬間、ずっと締め付けられていた首元が開放されたみたいにやっと息ができた。


見たところ大きな怪我はねェ。



・・・・・・ちゃんと、生きてる。



今すぐ抱き寄せたい衝動に駆られたが、まずは安全確認が先だ。


その時、売店のカウンター横に不自然に置かれた紙袋に目が止まる。



それに近付き、紙袋の中を覗くと・・・・・・、




「・・・・・・やっぱりな。ここにも仕掛けてたのかよ」


タイマーは残り15分。



「おい、萩!聞こえるか?」
『聞こえてる!そっちの状況は?』
「こっちにもやっぱり仕掛けてあった。道具は俺が今持ってるやつで足りるから、お前はレスキューにあの瓦礫を早くどうにかするように伝えてくれ」
『分かった。間に合いそうなのか?』



爆発までのカウントダウンを刻む電光掲示板。


刻一刻とその時が迫る。



「陣平?」

隣で不安そうに俺の腕を掴むなまえ。



バーカ、そんな不安そうな顔してんじゃねェよ。


お前も、他の奴らも、こんなとこで死なせてたまるか。




「こんなの3分もあれば十分だ」
『さすが陣平ちゃん。その様子だとなまえも無事なんだな?』
「あぁ。とにかくあの瓦礫、頼んだぞ」


萩との通信を切り、爆弾のカバーを外す。


入り乱れたコード。さっきまでの不安はもうなかった。






陣平は、言葉通りその爆弾をすぐに解体してしまった。


止まったタイマーに、周りの人も安堵の息をつく。



「はぁ、終わった。あとはレスキューの救助を・・・・・・っ、!!」


解体された爆弾の前で座り込んだ陣平に、私は勢いよく抱きついた。



「・・・・・・っ、ごめん・・・。ごめんなさい・・・っ、」
「いや、俺も悪かったよ。誕生日だったなんて忘れてた」
「っ、怖かった・・・。このまま陣平に二度と会えなかったらって・・・っ、あんなのが最後で死んじゃったら・・・って・・・、」


陣平の顔を見て安心したせいか、両眼から次々と涙が溢れてくる。


そんな私の背中に陣平の腕が回され、そのまま強く抱きしめられる。


いつもとは違う、焦げ臭い香り。それがこの状況を現実だと教えてくれる。


後頭部に回された手が、くしゃりと私の頭を撫でた。



「死なせねェよ。お前のことは絶対に守ってやる」
「っ、」
「だからこれからもお前は俺の隣でバカみたいに笑ってろ」



きっと彼の仕事は危険なもの。


私だっていつ何があるか分からない。


そんな中でこうして体温を感じられるのは、奇跡に近いものだから。



「・・・・・・誕生日、おめでとう」
「おう、ありがとな」


来年も、再来年も、そのまた次の年も、ずっとずっとその言葉を1番近くで伝えられますように。



────────────────



「てかさ、なんで俺の誕生日にお前が見たがってた映画なんだよ。普通は俺の好きそうなやつ選ぶんじゃねェの?」

その日の夜ソファに並び座りながら、ふとそんな事をなまえに尋ねた。

俺が帰ってからぴたりと引っ付いて離れようとしないなまえは、腰に抱きついたまま口を開く。


「あの映画ってカップルで見たら、お互いの好きが増すって話題になってたから。陣平とそれ見てもっと私のこと好きになってもらおうと思ったの」
「・・・・・・何だそれ」


なんというか、単純で恋愛脳のコイツらしい考え方だ。思わずくすりと溢れた笑いに、なまえはジト目で俺を睨む。


「だって圧倒的に私の好きの方が大きいんだもん」
「・・・・・・そうでもねェけどな」
「え?」
「何でもねェよ、ばーか」


お前に何かあったかもって思ったら、生きた心地がしなかった。


それくらい俺にとってなまえの存在はデカいもの。


・・・・・・・・・まぁ、調子乗るから絶対言わねぇけど。



Fin


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