番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


「陣平のバカ!!!もう知らない!!!1人で行ってくるもん!!」


なまえは、ぼんっと勢いよくソファにあったクッションを投げつけると、そのまま部屋を飛び出していった。


喧嘩の理由なんて些細なことだった。



なまえがずっと見たがっていた映画。

ド定番の女受けの塊みたいな恋愛映画を見たいとごねたなまえ。映画の内容になんて1ミリの興味もないけど、まぁコイツが行きたいなら付き合ってやるかと約束したのが一昨日のこと。


そして約束当日。


非番だったはずの俺の携帯に、上司からの緊急の呼び出しの連絡がきた。



「悪い、仕事行かなきゃいけねェわ」
「っ、今日?映画行く約束してたのに・・・」
「ごめん。また次の休みにでも付き合うから」
「何時に帰ってくるの?」
「分かんねェ。非番の俺呼び出すくらいだから遅くなるかもだし、先寝てていいから」


腕に絡みついていたなまえの体を離し、着替えるためにソファから立ち上がる。



「今日中に帰ってきてよ・・・」

そんな俺の服の裾を掴んだなまえがぽつりと呟く。


「分かんねェって。仕事なんだから、ンなガキみてェな我儘言うなよ」

我儘な奴だけど、今まで俺の仕事のことでこんなになまえが愚図ったのは初めてだった。



早く行かなきゃいけねェってのに・・・。


そんな俺の苛立ちを孕んだ物言いが、なまえの逆鱗に触れた。



「私との約束なんてどうでもいいの?」
「は?ンなこと言ってねェだろ。・・・・・・めんどくせぇな」


きっと最後の一言が引き金だった。


キッと俺を睨んだなまえは、冒頭のセリフを俺にぶつけるとそのまま部屋を飛び出し寝室に駆け込み勢いよくドアを閉めた。



まじで何なんだよ、アイツ。


はぁ、と深いため息をつきそのまま着替えに向かう。


もう少し時間と心に余裕があれば、きっと寝室のドアを叩いてアイツに向き合おうとしたんだろう。


でもこの時の俺にそんな余裕はなくて、なまえに何も言葉をかけることのないまま家を出た。






「陣平ちゃんもついてないよなぁ」
「何がだよ」


警視庁に着くと、同じく呼び出しのかかったであろう萩がひらひらと手を振ってくる。


朝のなまえの態度にイラつきを隠せない俺は、不機嫌さを隠すことなく萩に視線を向ける。


「せっかくの誕生日だってのに、呼び出されるとか。なまえの奴、大丈夫だったのか?」



・・・・・・誕生日・・・?


その言葉に、ライターをくるくると回していた手が止まる。



「陣平ちゃん?」
「・・・・・・・・・今日、俺の誕生日か」
「忘れてたのか」


だからアイツあんなに拗ねてたのか・・・・・。


出会ってから毎年、なまえは自分の誕生日以上に俺の誕生日には気合を入れていて。


きっと今日だって色々と考えていたんだろう。



てかなんで俺の誕生日に自分の見たい恋愛映画なんだよ、って心の中で呟いてみるけど拭いきれない罪悪感が頭をチラつく。



「喧嘩でもしたのか?」
「・・・・・・忘れてたんだよ、自分の誕生日なんか。映画行く約束してたのに、仕事入ったって言ったらひとりで行くって拗ねてた」



はぁ、と深いため息がこぼれる。わしゃわしゃと髪を乱す俺を見る、萩はぴたりと固まったまま動かない。


そしてそのまま勢いよく俺の腕を掴んだ。



「映画って・・・、どこの映画館だ?!」
「何だよ、急に。この辺だったら米花シティービルじゃねェの?」
「っ、」


この辺りで映画館といえばあそこだろう。


俺の言葉に、萩の顔が険しくなる。


「今すぐなまえに電話しろ!!」
「どうしたんだよ、マジで」
「俺達が呼び出されたのは、米花シティービルに爆弾仕掛けたって予告電話があったからだ!まだ分かんねェけど、ガチだったらアイツ巻き込まれるぞ!」



萩の言葉を理解するのに時間がかかった。


きっとそれは現実を受け入れたくはないから。



俺は携帯をポケットから取り出し、なまえに電話をかけた。

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