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※ 色々設定が雑な気がします。ゆるっとした雰囲気が苦手な方はご注意ください。
久しぶりに幼馴染み3人の休日が重なったとある日のこと。
夕方から研ちゃんの家で宅飲みをしていた私達。お酒を飲んだこともあり、いつの間にか眠っていたらしい。
ふわりと香るのは慣れ親しんだ研ちゃんの香水の匂い。ソファで寝落ちしたであろう私には水色のブランケットが掛けられていて自然と頬が緩む。
薄く目を開けると、窓から見える景色はいつの間にか暗くなっていた。
背を向けてテレビを見ながらお酒を飲んでいる2人は、私が起きたことにまだ気付いていないようだ。
「最近よくテレビ出るよなぁ、このグループ」
「たしかに。バラエティとかでもよく見るな。陣平ちゃん好きなの?」
「あの黒髪ショートのセンターの奴は可愛いと思うけど、それ以外は興味ねぇな」
2人が見ていたのは最近流行りのアイドル達が特集された歌番組。ひらひらとしたチェックのワンピースでマイクを握る5人組がちょうど画面に映る。
へぇ、陣平ちゃんってあんな感じの子が好きなんだ。なんて心の中でにやけながら2人の会話を盗み聞く。
こうして2人の男同士≠フ会話を聞くことは新鮮だった。
「萩は?この中なら誰がいいわけ?」
陣平ちゃんのその質問に、どきりと心臓が跳ねた。
なまえ以外の女の人に興味なんかないよ
研ちゃんはいつもそう言ってくれる。
彼の周りには昔からいつも女の子がいた。私と付き合ってからも研ちゃんに思いを寄せる女の子は後を絶たなかった。
それでも研ちゃんは、私のことを特別扱いして大切にしてくれていたから。
不安になんてならないって言ったら嘘になるけど、その度に「なまえだけだよ」って優しく笑ってくれるから。
「1番右。茶髪のロングの子だな」
「へぇ、まぁたしかに萩が好きそうなタイプだわ」
免疫がなかったんだと思う。
例え相手が画面の中の人であったとしても、私以外の人が研ちゃんの目に映ることに。
お酒を飲みながらケラケラと話す2人の声が上手く頭に入ってこなくて。
別に男同士の他愛もないやり取りなんだろう。深い意味なんてない。それにそもそもあの子は別の世界の人間だから、研ちゃんと関わるわけがない。
頭では分かっていても、胸の中でもやもやと渦巻く黒い何かは消えてくれない。
ちらりと盗み見た画面に映るキラキラとした女の子達。茶髪のロングヘアの女の子から目が逸らせない。
すらりと伸びた手足に、緩く巻かれた綺麗な髪。大きな目が印象的で、女の私から見ても綺麗な人だと思う。
・・・・・・っ、何考えてんの、私・・・。
ふるふると首を振ると、頭の横にあった携帯が床に音を立てて落ちた。
「なまえ、起きた?」
「っ、」
その音に反応した研ちゃんがこちらを振り返る。
机の上にあったミネラルウォーターのペットボトルを手に取ると、キャップを開けて私に差し出す研ちゃん。
その瞳に映っているのは、間違いなく私。
起き上がった私はソファの下に腰を下ろした研ちゃんにばっと勢いよく抱きつく。
「っ、どした?なんか怖い夢でも見た?」
「怖い夢ってガキかよ」
予期せぬ私の行動に驚きながらもペットボトルを持っていない手で難なく抱きとめてくれる研ちゃんと、そんな彼の言葉を聞いて揶揄うように笑う陣平ちゃん。
私は何も言わずそのまま研ちゃんの胸に顔を埋めた。
ペットボトルを机の上に置くと、研ちゃんは片手で頭を撫でながらぎゅっと抱き締めてくれる。
「大丈夫だよ。俺も陣平ちゃんもいるからもう平気だろ?」
「・・・・・・っ、うん・・・」
私以外なんか見ないで。
そんな子供みたいな独占欲を隠すように、私は何もかも夢のせいにして研ちゃんの優しさに甘えた。
それから2週間ほど過ぎたある日。
私の子供じみた嫉妬心は、いつもと変わらない穏やかな研ちゃんのおかげで随分と和らいでいた。
大学の講義を終え、1人でふらふらと帰り道を歩いていると自販機の前でスーツにサングラスをかけた見知った人の姿を見つけ声をかける。
「陣平ちゃん!」
「おう、なまえか。大学終わり?」
「うん。陣平ちゃんは仕事中?」
「聞き込み終わって署まで戻るとこ。喉乾いたからコーヒー買いに来た」
陣平ちゃんの手にはブラックコーヒーの缶。そして彼が指さしたのは、少し向こうに停まった赤い車。その車の中には佐藤刑事がいて、なにやら電話中のようだった。
「あ!てかお前萩から聞いた?」
「・・・・・・?」
缶コーヒーを開けた陣平ちゃんが、何かを思い出したようにサングラスをずらしながらこちらを振り返る。
何のことか分からず首を傾げた私を見て、陣平ちゃんは話を続ける。
「×××って5人組のアイドルいるだろ?今度一日署長でうちの署に来るらしい」
「っ、!」
「うちの課にもファンの奴ら多いみたいで大盛り上がりだったんだよな」
そのときのことを思い返しているのか、陣平ちゃんは呆れたように小さく笑った。
彼の口からでたのは、あの日画面の向こうでキラキラと輝いていた女の子達の名前。
何もないと分かっていても、あの時の研ちゃんの言葉が頭を過る。
「・・・・・・い、おい!なまえ?」
「っ、!」
「何ぼーっとしてんだよ。体調でも悪いのか?」
ひらひらと私の顔の前で手を振る陣平ちゃん。黙ったままだった私を心配そうに見るその表情。
「大丈・・・「松田君!そろそろ戻るわよ!」
大丈夫、そう言おうとした私の言葉を遮ったのは、車の窓を開けて陣平ちゃんを呼ぶ佐藤刑事の声だった。
助かった、そう思った。
このまま陣平ちゃんと話していたら、あの子供じみた嫉妬心がバレてしまいそうだったから。
「お前1人で帰れんの?」
「うん!体調悪いとかじゃないから大丈夫。ちょっと疲れてぼーっとしてただけ」
「ならいいけど。気をつけて帰れよ」
飲み終えた缶コーヒーを自販機の横のゴミ箱に捨てると、陣平ちゃんはくしゃりと私の頭を撫で佐藤刑事の車の方へと走っていく。
その背中を見送りながらも、頭の中はあの女の子のことでいっぱいだった。
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