▽ 1-2
それから距離がぐんと近付いた私となまえ。
その距離が近付くにつれて、なまえが抱えている弱さと葛藤を知った。
それは松田先輩への気持ち。
そして萩原先輩への気持ち。
はっきりと彼女がそれを語ることはなかったけれど、二人への強すぎるその想いは言葉や行動の端々から伝わってきた。
*
「研ちゃんとね、付き合うことになったんだ」
月日は流れ、卒業を控えた大学四年生の冬の終わりのことだった。
大学内のカフェで恥ずかしそうに俯きながら、なまえはそう言った。
「〜っ、おめでとう!!!」
それは心からの言葉。
だってそう話すなまえの顔が幸せそうだったから。
「ふふっ、なんで……が涙目なの」
思わず涙ぐむ私を見て、なまえは困ったように笑った。
正直、高校時代のなまえは松田先輩が好きなんだと思ってた。
萩原先輩には躊躇なく触れるなまえが、松田先輩にはそれをしないから。
そこに感じる彼への“特別”。
そんな三人をずっと近くで見てたから。
萩原先輩がずっとなまえを想っていたんだろうな、ということもなんとなく感じていた。
そしてそれは松田先輩も。
複雑に入り交じった迷路みたいな三人の関係。
それでも私はやっぱりなまえの友達だから。
彼女が笑っていられることが一番だった。
*
大学の門を出ると、そこには一台の車。
「あ、研ちゃんの車だ」
それに気付いたなまえは、ぱたぱたと車に駆け寄る。
「なまえ、おつかれさん。……ちゃんもお疲れ様」
車から降りてきた萩原先輩がくしゃくしゃとなまえの頭を撫でながら笑う。
他愛もない話をしていると、なまえが「あ!」と声を上げる。
「さっきのカフェに鍵忘れちゃった!ちょっと取ってくる!」
しっかりしているくせに、どこか抜けている彼女。慌てた様子でカフェへと走っていく。
その後ろ姿を見て萩原先輩は、小さく笑った。
二人きりになった私達。
何を話したらいいんだろうか。
なまえと三人で話すことはあっても、二人きりとなると話の内容を考えてしまう。
「ありがとね、……ちゃん」
そんなことを考えていると、萩原先輩がそう言った。
なんのお礼か分からなくて、首を傾げた私を見て彼は優しく目尻を下げた。
「なまえと仲良くしてくれて。あいつ昔から女友達ってほとんどいなくてさ、たぶん……ちゃんが初めてできたちゃんとした友達だと思うんだ」
お礼を言われるなんて思っていなくて。
「私の方こそ、ですよ。なまえと友達になれてよかったって思ってます」
それは心からの言葉だった。
あの日、私は凛とした彼女の強さに惹かれたから。
「なまえのこと、幸せにしてあげてくださいね」
「おう。任せてください」
「たとえ萩原先輩でも、あの子を泣かせたら私許さないですからね」
私の言葉を聞いて萩原先輩は、嬉しそうに笑う。そこに滲むのは、なまえへの愛情で。
「ごめん!お待たせ」
そこに息を切らせたなまえが戻ってくる。
「何の話してたの?」
「んー?俺がなまえのこと大好きって話かな」
「私の方がなまえのこと好きって話だよ」
「ふふっ、何それ」
なまえは甘えるように萩原先輩の腕に、自分の腕を絡めた。
そして反対の手で私の腕を引く。
笑い合う二人を見ていると、私まで幸せな気持ちになった。
Fin
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