番外編 君ありて | ナノ
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▽ 1-1



※ 夢主以外の女の子sideのお話なので苦手な方はご注意ください。他の短編と時系列的に少し矛盾があるかもしれないのでご了承ください。



私には高校時代に知り合った友人がいる。


みょうじ なまえ。


高校一年生の春。
たまたま同じクラスで隣同士の席だった私達。


彼女の第一印象は、少しだけ取っ付き難い綺麗な子。

話しかければ答えてくれるし笑顔も見せてくれる。でもその笑顔はいつも同じで、どこか距離を感じるもの。


そんな彼女が唯一、屈託のない笑顔を見せる時がある。


「なまえ。帰るぞ〜」
「研ちゃん!うん、すぐ行く!」

放課後、開きっぱなしの教室の扉から顔を覗かせるのは一学年上の萩原先輩。そしてその後ろで欠伸をしている松田先輩。


クラスの女子生徒がざわざわと色めき立つ。


そんな彼らの元に駆け寄るみょうじさん。

どうやら三人は幼馴染みらしくて、昔からずっと一緒だったそうだ。


彼らといる時のみょうじさんは、教室で見せる作られた笑顔じゃない。それは彼女が彼らに心を許している証拠なんだろう。


「あーあ、何あれ、自慢したいのかな?」
「感じ悪いよね、ホント。昔からあんな感じなんでしょ?みょうじさんって」
「うん。特に萩原先輩にべったりでさ、付き合ってないって言うけどそれなら周りの子の気持ち考えろって感じだよね」


みょうじさんがいなくなった教室で、聞こえてくるのは彼女の悪口。

彼女と同じ中学だった女の子を中心に、口汚く彼女を貶す言葉が飛び交う。


きっとみょうじさんがクラスの子と距離を置くのは、これが理由なんだろう。


人間は、自分に向けられる悪意に敏感だ。


彼女だって馬鹿じゃない。
周りから向けられるそれに気付いているんだろう。


それだけじゃない。


「まじ可愛いよなぁ。萩原先輩か松田先輩と付き合ってんのかな?」
「幼馴染みらしいけど、どうなんだろうな。この前萩原先輩と腕組んで帰ってたらしいぜ」

男子生徒達から向けられる好意も彼女からしたら厄介なものでしかないんだろう。


高校生なんて話題になるのは、他人の色恋沙汰か悪口ばかり。


「・・・・・・そりゃ笑えなくもなるか」

ぽつりと呟いた独り言は、教室の喧騒に飲み込まれて消えた。





一限目の体育。

教室に忘れ物をした私は、すでに体育館に向かったクラスの友人と別れ来た道を戻る。


誰もいないと思っていた教室には、制服のままのみょうじさんが何かを抱えてぽつんと立っていた。


「みょうじさん?」

その後ろ姿に声をかける。

振り返った彼女の腕の中には、私が今着ているのと同じ色の長袖のジャージ。


でもそれはボロボロに破られていて。


「っ、それ・・・」
「幼稚なことするよね、ホント」

彼女は傷付いた素振りなんて一ミリも見せずに、くすりと笑う。

その顔が大人びて見えて、目が逸らせなくなった。


「大丈夫、なの?」
「平気だよ、これくらい」

彼女はそう言うと、そのジャージをゴミ箱に捨てると私に背を向け教室を出ていった。


しばらくの間、その場に立ち尽くしていた私。


始業のチャイムが迫っていることに気付いた私は、慌てて体育館に向かった。


中に入るとみょうじさんの姿はなくて、以前彼女の悪口を言っていた女子生徒がくすくすと笑っている。


このままみょうじさんは、授業に出ないんだろうか。なんて私の心配は杞憂に終わる。



チャイムが鳴るほんの少し前、体育館の扉が開き現れたみょうじさん。そんな彼女を見て笑っていた女子生徒の顔がぴきりと固まる。


彼女が着ていたのは、女子が着るには大きすぎるジャージ。腰まですっぽりと隠れるそのジャージの胸には、『萩原』と名前が刺繍されていた。


それを見て悔しげに彼女を睨む女子生徒達。


学生にとって学校は小さな社会だ。

そこでの虐めなんて私達にとっては大きなこと。それでも彼女はそんなこと気にもとめた様子もなくケロリとしていて。


強い子、そう思った。





それからもみょうじさんは、クラスの子達とは少しだけ距離を置いていた。


普通に話しかける生徒もいたし、相変わらず悪口を言う生徒もいた。



「付き合ってないならベタベタしないでよ」
「周りの子達の気持ち考えたら?」

昼休み、たまたま通った体育館裏から聞こえてきたそんな声。

チラリと覗き見ると、同じクラスの女子生徒達がみょうじさんを取り囲んでいた。


今日も彼女は、いつもと変わらない表情で。


「研ちゃんが好きなら本人にそう言えばいいんじゃないの?それとも陣平ちゃん?私にこんなとこであれこれ言うより、もっと他にすることあるんじゃない?」

それはとても冷たい声だった。

カッと頬を赤くした一人がみょうじさんを思い切り突き飛ばす。


その衝撃で彼女は地面に腰を着く。


「っ、幼馴染みだかなんだか知らないけど調子乗りすぎなんだって。萩原先輩のこと好きな子の気持ち少しは考えなよ」

そんな捨て台詞を吐いた彼女達は、ぱたぱたと教室の方へと戻っていく。


私はそっと影から出ると、みょうじさんの前に座った。


「大丈夫?手怪我してる」
「これくらい平気だから」

差し出したハンカチを受け取ることはせず、みょうじさんはすっと立ち上がった。


ぱんっとスカートについた砂を払いながらこちらを見る彼女。


「あのさ、研ちゃん達に今見たこと黙ってて欲しいんだ」
「何で?話した方がいいんじゃないの?」

きっとあの二人ならみょうじさんが虐められてると知れば黙っていないだろう。


ましてそれが自分のせいなら。


「さっきの子達、研ちゃんのこと好きみたいだし。そんなの知ったら研ちゃんが変な罪悪感感じちゃうでしょ?」

そう言ってみょうじさんは小さく笑う。


その強さに憧れ。

彼女に近付きたいと思った。


「っ、あのさ!友達にならない?」

背を向けて立ち去ろうとしたみょうじさんの腕を掴む。

きょとんとした顔でこちらを見る彼女。初めて見るその表情がなんだかおかしくて、くすりと笑みがこぼれた。


「なんで私と?変に目付けられちゃうよ」
「私が仲良くなりたいと思ったから!それが理由じゃダメかな?」


しばしの沈黙。

じりじりと地面を照らす太陽が眩しい。


「・・・・・・ははっ、変な子」



それが初めて見たなまえの“笑顔”だった。

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