▽ 1-1
とある日の、昼休み。
「はぁ?合コン?!」
我ながらでかい声がでた。
教室にいたクラスメイトの視線が一気に集まる。
「声がでけぇーよ、馬鹿」
呆れたようにはぁとため息をつく萩が、ぱしんと俺の頭を叩く。
「お前が急に・・・っ、」
「はいはい、いいから黙って聞けって」
声のボリュームを下げた萩は、そのまま話を続けた。
「隣の街に男子校あるだろ?そこの三年とうちの一年が今日合コンなんだと。しかもなんとその一年の中には、なまえもいるってこった」
「・・・・・・で、なんだよ」
「今日俺はどうしても外せない用がある。だから代わりに陣平ちゃんが様子見に行ってやってよ。お前も気になるだろ?」
「何でだよ!別にあいつのことなんか・・・」
萩は、ぱん!と両手を合わせながらそう言った。
気にならない・・・・・・、わけねぇだろ!
あの馬鹿。
何チョロチョロしてんだよ。
お前は大人しく萩のこと見てればいんだよ、なんて思ってもいないことを口走りそうになる。
「駅前のカラオケあるじゃん?放課後あそこで待ち合わせらしいから!」
「・・・っ、行くって言ってねェよ!」
行くなんて言ってねぇ。
ぶつぶつとそうこぼす俺を見て萩はケラケラと笑っていた。
*
放課後。
かれこれ二時間、駅前のベンチの影に座る俺は周りから見れば不審者に違いない。
「だいたいカラオケなんてどうやって様子見るんだよ」
飯屋ならともかく、カラオケなんて個室だ。様子が気になっても他人の俺が覗けるわけない。
萩への文句を吐きながら、はぁとため息をつく。
「楽しかったなぁ!なまえちゃん歌うまかったね」
「そんな事ないですよ」
そのとき、聞き覚えのある声がして顔を上げる。
カラオケから出てきたのは、チャラチャラとした制服姿の男と、なまえだった。
同じグループらしき男女から半歩遅れて歩きながら、その男は馴れ馴れしくなまえの肩に触れる。
イラッ、っと眉間に皺が寄る。
だいたいあいつも何ヘラヘラ笑ってんだよ。
いつも萩や俺以外の男なんて寄せ付けないくせに。
ふつふつと込み上げてくるどす黒い何か。
「ねぇ、このまま二人でどっか行こうよ。なまえちゃん可愛いし俺めちゃくちゃタイプなんだよね」
その男の言葉に俺の中の怒りが最高潮に達した。
「おい!なまえ!」
きっと萩ならもっと上手くやるんだろう。
でも俺はそんなことはできない。
気が付くと俺は割って入るように、後ろからその二人に声をかけていた。
*
遡ること数時間前。
「お願い!ホント一生のお願い!!」
「・・・・・・えっと、ごめんなさい・・・」
目の前で頭を下げるのはクラスメイトの女の子。
どうやら隣町の男子校との合コンに来て欲しいらしく、かれこれ五分以上このやりとりを繰り返していた。
結局根負けしたのは私の方。
適当なところで抜けていいから、という言葉を信じ頷いた私を見て彼女は何度もお礼を言っていた。
「てことなの。だから研ちゃん迎えに来てくれない?」
「面倒臭いことに巻き込まれたな」
ケラケラと楽しげに笑う幼馴染み。合コンなんていいイメージもないし、すんなり帰れる気もしなかった私は彼に迎えを頼みにやって来ていた。
「いいよ。俺が何とかするからとりあえず最初だけどうにか頑張ってこい」
「ありがと〜!」
くしゃくしゃと私の頭を撫でる研ちゃんが何を考えていたかなんて、この時の私は知る由もなかった。
そして現在に戻る。
目の前には名前すら覚えていないチャラついた男。そして後ろから私の名前を呼ぶのは、研ちゃん・・・・・・ではなく陣平ちゃん。
頭の中にハテナが浮かぶ。
「・・・っ、なんで陣平ちゃんがここにいるの?!」
「たまたま通りかかったんだよ。お前こそ何してんだよ」
「えっと、いや、これは・・・」
陣平ちゃんに見らるなんて思ってもみなかった。
そんな思いからしどろもどろになる私。
そんな私達を見ていい気がしないのは、私の腕を引くこの男だろう。
「誰?なまえちゃんの知り合い?」
「えっと・・・」
「ベタベタ触ってんじゃねェよ」
私が答えるより先に、陣平ちゃんが腕を掴んでいた男の手を払った。
そのまま私の肩を引き、その男の前に立つ彼。
「とりあえずこいつは連れて帰るからな」
「っ、おい待てよ!」
そんな彼の言葉を無視して、私の腕を掴むとそのままくるりと背を向けて歩き出す陣平ちゃん。
ずるずると引き摺られる私になす術はなくて、驚いたように目をぱちぱちとさせているクラスメイトに頭を下げることしか出来なかった。
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