番外編 君ありて | ナノ
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▽ 1-2



あぁ、胸糞悪ぃ。


駅前を離れた俺達は、近くの公園のベンチに腰を下ろした。


珍しく大人しいなまえは、何かを喋りかけては口を閉ざすを繰り返していた。


「研ちゃんが迎えに来ると思ってたの」

自販機で買ったカフェオレが半分くらいに減った頃。なまえはぽつりとそう呟いた。



あぁ、なるほど。


萩に嵌められたな、これは。


あいつの考えそうな事だ。



「なんで合コンなんて行ってんだよ。普段のお前なら行かねぇだろ」
「クラスメイトの子に頼まれたの。どうしても、って」
「・・・・・・はぁ、安請け合いしてんじゃねェよ」

頼まれて断りきれなかった、その様子が目に浮かぶ。

大きなため息をついた俺を見て、小さな声でごめん、と謝るなまえ。


クソっ、別にそんな顔をさせたいわけじゃないのに。



素直になれない自分への苛立ち。


駄目だ。これじゃいつもと同じじゃねぇか。



残っていたカフェオレを飲み干すと、空き缶をゴミ箱に投げ捨てる。


「他の男の前でヘラヘラ笑うな、馬鹿」
「っ、」
「軽い女になるな。勝手に触られるんじゃねぇよ」
「・・・・・・研ちゃんのときはそんなこと言わないじゃん」


俺がそんなことを言うと思っていなかったんだろう。戸惑ったように萩の名前を出すなまえ。


そんなの当たり前だろ。


あんなチャラついた男と萩原を一緒にするんじゃねぇよ。あいつはお前にとって・・・、



そこまで言いかけて口を噤む。


そんなこと言ったらきっと困らせる。


今伝えるべきは、そんな言葉じゃない。





普段以上にイラついた様子を隠そうとしない陣平ちゃん。


研ちゃんと私がどんなに近くにいても何も言わないくせに、今日に限ってやたらと噛み付いてくる。



「他の男の前でヘラヘラ笑うな、馬鹿」
「っ、」
「軽い女になるな。勝手に触られるんじゃねぇよ」
「・・・・・・研ちゃんのときはそんなこと言わないじゃん」


期待してしまいそうになる。

特別、なんかじゃないのにその言葉にそれを望んでしまいそうになるから・・・。


いつの間にか瞳にじんわりと涙の膜が張る。歪んだ視界。瞬きをすれば零れ落ちそうなそれに気付いた陣平ちゃんは、驚いたように目を見開く。

そんな顔を見られたくなくて、思わず俯く。


「っ、なんで泣いて・・・」
「泣いてないもん・・・」
「泣いてるじゃねぇか!」
「泣いてない!」
「泣いてるだろ!」
「泣いてないってば!!!」

私が顔を上げてそう叫ぶのとほぼ同時、視界が真っ暗になる。


頭から陣平ちゃんの学ランを被せられたんだと、気付くまでに時間はかからなかった。


塞がれた視界。ふわりと陣平ちゃんの香りに包まれる。



ぽんっと、頭にかかる手のひらのような重み。


「泣くな、馬鹿。お前が泣いてたらどうしていいか分かんなくなる」
「・・・・・・っ、」
「怒鳴って悪かった。他の男といるの見たらなんでか知らねぇけどムカついたんだよ。だからあんな言い方した、ごめん」



陣平ちゃんがそんな風に素直に謝るなんてそうそうあることじゃない。その言葉にすっと涙が引っ込んだ。





泣きそうな顔を見たくなくて。そして今の俺の顔を見られたくなくて・・・・・。


着ていた学ランを脱ぎ、俯いていたなまえの頭に被せた。



顔を見ていないからこそ言えた本音。


ちらりと学ランから顔を覗かせたなまえがこちらを見る。


潤んだ瞳でこちらを見るその表情はどうにも心臓に悪い。


「・・・・・陣平ちゃんがなんか素直だ・・・」
「うるせー!泣き止んだんだったら、さっさと帰んぞ」
「だから泣いてないってば!」
「へぇへぇ、分かったよ」


さっきまでの涙が嘘のようにケラケラと笑いながら学ランをぎゅっと抱きしめるなまえ。


何だかその姿を見ていると、さっきまでの真っ黒な気持ちが浄化されるような気がして。


「っ、!」
「帰んぞ。どーせ萩が待ってるだろうし」

昔よくしていたみたいに、なまえの肩に腕を回す。


普段より近いその距離。


重なった影を見て満足気に笑う俺に気付かないでほしいと、そう願った。


Fin


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