番外編 カミサマ | ナノ
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▽ 1-2



体育祭当日。

自分の参加する競技はもちろんのこと、体育祭全体の用意や進行。体育祭委員としてやらなければいけないことは盛りだくさんだった。


「体育祭委員は体育館に集合だって!次の種目の用意するらしい」
「うん、分かった!すぐ行くよ」

同じクラスの体育祭委員に呼ばれて体育館へと向かう。

そこにはすでに何人かの体育祭委員が集合していた。その中にある金髪に無意識に目がいく。

不意に降谷先輩がこちらを振り返り視線が合う。


「お疲れ。体育祭当日もやることいっぱいで大変だよな」
「っ、ですね。降谷先輩は紅白リレー出るんですか?」

話しかけられるとは思っていなくて思わず言葉に詰まった私。どうにか話を続けようと、彼のポケットから覗く白いハチマキを指さした。


午前の部で一番盛り上がる競技。

それが紅白リレーだった。


学年問わず男女それぞれの五十メートル走のタイムの早い八人が選ばれ、紅白に分かれて競い合うのだ。


「あぁ。白組だから応援してくれたら嬉しい」
「もちろん!めちゃくちゃ応援します!」
「ははっ、ありがと。今回は負けるわけにいかないから頑張るよ」



“ 今回は”

その言葉が何故か引っかかったけれど、嬉しいと言ってくれたその言葉の方が嬉しかった私は少しだけ舞い上がっていたのだろう。


その言葉の真意なんて見えていなかった。



用意を終えクラステントに戻ると、いよいの紅白リレーが始まった。


「え!今年のアンカーって諸伏先輩と降谷先輩なんだ!!」
「やば!!どっちが勝つんだろ!」

それぞれのスタート位置に着いた選手を見て、周りの女の子達がザワザワと騒がしくなる。


アンカーの出発位置はちょうど私達のクラスの近く。そこで紅と白のハチマキを巻く降谷先輩と諸伏先輩。その姿に黄色い歓声が飛び交う。


「ヒロくん!!!頑張ってね!!」

隣のクラステントから聞こえた声に諸伏先輩が手を振る。その視線の先にはみょうじさんがいた。


「・・・・・・っ・・・」

そんな二人を見る降谷先輩の表情を見た瞬間、私は先程の彼の言葉の意味を知る。


去年はたしか降谷先輩と諸伏先輩は同じチームだった。

今年は二人は別のチームで同じアンカー。


あの言葉は諸伏先輩には負けられないという彼の気持ちの表れだったのだ。



「……?どうかしたの?」

思わず俯いた私の名前を友達が呼ぶ。
自分がどんな顔をしているのか分からなくて、顔を上げることができない。


あの噂は根も葉もないものではなかった。


きっと降谷先輩の想う相手はみょうじさんなのだ。


けれどみょうじさんは諸伏先輩の彼女。
幼馴染みとして一緒にいる三人。

一体彼はどんな気持ちで二人と一緒にいるんだろうか。


それを考えると胸がぎゅっと締め付けられた。


パンっ!と乾いたピストルの音が響く。


足の速い人ばかりの紅白リレー。前半からほとんど差はなくて、僅かに白組がリードしている程度。


けれど六人目から七人目へのバトンパスで、白組はミスをしてバトンが地面へと落ちた。


七人目の選手が慌ててバトンを拾って走り出したものの紅組との差は開いていた。


そしてバトンはいよいよアンカーへ。


四分の一周程度リードしている紅組。諸伏先輩への歓声が飛ぶ。

チラリと隣のクラスのテントを見るとみょうじさんも諸伏先輩を目で追いながら声を上げていた。


そりゃそうだよね、彼氏だもん。


バトンを受け取った降谷先輩が走り出す。けれどその差は縮められるものではないと思った。


「降谷先輩!頑張ってください!!」

私は周りの友達に負けないくらい声を張って彼を応援した。

さすが二人ともアンカーに選ばれるだけあってものすごく速い。けれど縮まらないその差がもどかしい。






「零!!!!!頑張れ!!!」

私の耳に届いたその声はたしかに降谷先輩の耳にも届いたんだろう。

ちょうどみょうじさんの前を降谷先輩が走り抜けた瞬間、彼女の声が響いた。

その視線は降谷先輩に向いていた。


その声を聞いた降谷先輩の口元に僅かに笑みが浮かぶ。


思わず私はぐっと下唇を噛んだ。




「やば、これ追いつくんじゃない?」
「二人とも速すぎでしょ」

スピードを上げた降谷先輩に辺りがざわざわと騒がしくなる。

ゴールテープまであと僅か。


結果は・・・・・・・・・、






「紅組の勝利!!!!」

先にゴールテープを切ったのは諸伏先輩だった。



次の種目の用意で本部のテントへと向かうと、すぐ近くで諸伏先輩と話すみょうじさんの姿を見つけた。その隣には降谷先輩もいる。


「ヒロくんめちゃくちゃかっこよかった!」
「ははっ、ありがとう。でも最後の零にはちょっと焦ったよ」
「抜かせると思ったんだけどな。景じゃなかったら勝ててたのに」
「零も最後めちゃくちゃ速かったよね」

諸伏先輩の腕に自身の腕を絡めながら笑うみょうじさんの姿を見ていると、胸の奥にドロドロとした黒いものが渦巻く。


ずるい。

諸伏先輩がいるのに、降谷先輩の心を掴む彼女が。


「・・・・・・っ・・・」

自分の中にあるそんな感情に思わずはっと息を飲む。


私今何を考えてたの・・・?


こんなのまるで・・・・・・、



“ 本気で好きになってもしんどい”


いつかの友達の声が頭の中で木霊する。



・・・・・・・・・好きなんだ。


私、降谷先輩のことが・・・。

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