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※ 夢主以外の女の子sideのお話なので苦手な方はご注意ください。
高校一年の秋。
私は恋をした。
*
高校生になると周りの友達の話題は専ら恋愛話。恋に憧れる気持ちはあったけれど、皆が言うような気持ちはまだ私には未知のものだった。
ある日の放課後。
体育祭委員に選ばれた私は、委員会の集まりに参加していた。
その日は男子の体育祭委員が休みで、私一人で委員会に望んだ。
体育教師から体育祭についての話を聞きながらメモをとる。そして生徒に配布する資料が配られた。委員会の進行は三年生が行ってくれるのでスムーズに話が進む。
「じゃあとりあえず今日の委員会はここまでで。お疲れ様でした」
委員長の三年生がそう言うと各々教室を後にする生徒達。
私も立ち上がり荷物をまとめる。
鞄を肩に掛け、配られた資料を両手で持つ。
うっ、重たい・・・・・・。
クラス全員分の資料となるとさすがに量がある。
予想していたよりも重たいそれを頑張って持ち上げふらふらと教室の出口まで向かった私。こんなことなら友達に手伝ってもらえばよかった、なんて今更ながら後悔してみても時すでに遅し。
その時、不意に両手にかかっていた重みが軽くなる。
「・・・っ?」
「一人じゃ重たいだろ、手伝うよ」
隣から聞こえてきた声。誰かが私の持っていた資料を持ってくれのだ。
開けた視界。
最初に目に入ったのは鮮やかな金色だった。
「っ、すいません!ありがとうございますっ」
「何組?クラスまで持ってくよ」
「二組です・・・っ」
彼の名前は噂に疎い私でも知っていた。
降谷零。
最初は派手な金髪で不良なのかなとも思ったけれど、蓋を開けてみたら学年トップの成績の彼。
間近で彼と話をするのは初めてだった。
整ったその容姿。
そりゃモテるよな、なんてクラスの子達が彼を見て騒いでいたことを思い出す。
「もう一人の体育祭委員は休みなのか?」
「はい。風邪ひいてるみたいで、数日は休みみたいです」
「また一人で大変なら誰かに手伝ってもらえよ」
委員会が行われていた教室から私の教室まではそう遠くない。他愛もない話をしているとあっという間に教室に辿り着く。
片手で扉を開けた彼は教壇の上に資料をぽんっと置く。
今日の後ろの方で私のことを待ってくれていた友達二人が、私達をチラチラと見ていることに気付く。何故か気恥しい気がして、そちらを見ることができなかった。
「じゃあ帰り気をつけてな」
「っはい!ありがとうございました」
すれ違いざまにぽんっと私の肩を叩くと、そのまま教室を出ていく降谷先輩。
彼が教室を出たのを確認した友達が小走りでこちらにやって来る。
「何で降谷先輩と一緒だったの?!」
「やっぱり近くで見たらめちゃくちゃかっこいい・・・」
二人はキャーキャーと私を挟んで盛り上がる。
「あの資料運ぶの手伝ってくれただけだよ。ほら、男子の体育祭委員休みだったから」
「えー、優しいなぁ」
「降谷先輩と喋れるなら私も体育祭委員やればよかったー」
やっぱりモテるなぁ。なんて二人の話を聞きながら改めて思う。
きっと彼に憧れる女の子はたくさんいるんだろう。
「……もかっこいいと思ったでしょ?きゅんとした?」
不意に友達に名前を呼ばれはっとする。
「かっこいいとは思ったよ。でも皆みたいにキャーキャー騒ぐような感じでは・・・」
「分かってないなぁ。降谷先輩は皆の憧れでいいんだよ。むしろ本気で好きになったらしんどいよ」
彼女の言葉の意味が分からなくて首を傾げる。すると彼女は、窓の外にちらりと視線をやるとそのまま手招きをした。
ほら、と窓の外を指差す彼女。
そこにはさっきまでここにいた降谷先輩の後ろ姿。そしてその隣には緩く巻いた長い髪を揺らす女の子の姿。
「一組のみょうじさん知ってるでしょ?」
「うん。あの子がどうかしたの?」
「……知らない?降谷先輩とあの子って幼馴染みなんだよ。あと諸伏先輩も!」
幼馴染みか。
たしかそんな話を聞いたことがあるような、ないような・・・・。
けどどうしてそれが彼を本気で好きになるとしんどいという言葉に繋がるんだろうか。
「もしかして降谷先輩とみょうじさんが付き合ってるとか?」
行き着いたひとつの答えを口に出すと、友達はふるふると首を振る。
「みょうじさんが付き合ってるのは諸伏先輩の方。でも降谷先輩はみょうじさんのことが好きって噂なのよ」
「・・・・・またそんな根も葉もない噂」
「だって今まで誰が告っても断ってるんだよ?降谷先輩が仲良い女の子ってみょうじさんくらいだし。だから皆そうだって噂してるの」
人の噂とは勝手なものだ。
見ず知らずの人にこうして噂される降谷先輩のことを考えると少しだけ気の毒にすら思えた。
「とにかく!降谷先輩はカッコイイなぁって眺めてるくらいでいいの。本気になったって報われないんだから」
この時の私は、彼女の言葉を聞き流していた。
だって好きになるはずがない。そう思っていたから。
*
あの話を聞いてから、何故か降谷先輩とその幼馴染み二人が目に止まるようになった。
私がこれまで気にしていなかっただけで、あの三人はよく一緒にいたのだろう。
みょうじさんが隣のクラスということもあり、廊下で諸伏先輩や降谷先輩を見かけることも何度もあった。
この日も廊下で友達と話していると、目の前を降谷先輩が通り過ぎた。彼はそのまま一組の扉へと向かう。
「なまえ」
彼がみょうじさんの名前を呼ぶと教室から彼女が出てくる。廊下を歩く生徒達がちらちらと彼らを見ているけれど、当の本人達は全く気にしていないようだった。
「どうしたの?」
「電子辞書貸して。次の授業終わったら返すから」
「零が忘れ物とか珍しい」
「電池きれたんだよ。なまえと一緒にすんな」
「そんなこと言うなら貸さないよーっだ!」
べーっと降谷先輩に舌を出して笑うみょうじさん。ケラケラとじゃれ合いのように笑い合う二人の姿。
名前で呼び合うんだ。
幼馴染みならそれもそうか。
ぼーっとそんなことを考えながら二人の姿を見ていると、隣にいた友達がひらひらと私の顔の前で手を振る。
「ぼーっとしてどうしたの?大丈夫?」
「っ、うん。大丈夫だよ!」
「あの二人、気になるの?」
友達の視線が降谷先輩とみょうじさんにチラリと向けられる。
気になる?
別にそんなことはない。
ただ視界に入っていただけだ。
「なんか悔しいけど絵になるのは分かるかも、あの二人」
「わかる。みょうじさん可愛いもん。諸伏先輩のファンの子達もあの子なら納得だって文句言わなかったもんね」
隣から聞こえてくる会話にチクリと痛む胸の奥。
気の所為だ。
その痛みの理由なんて私は知らない。
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