▽ 1-2
「近付かないで・・・・!」
「面と向かってそんなことを言われるとはな・・・」
わざとらしく傷付いたように眉を下げた零くんは、私の隣に腰掛けた。
そしてそのまま手を伸ばし私の頭にそっと触れる。
「心配くらいさせてくれ」
「・・・・・・風邪・・・移るから・・・」
「そんなヤワな鍛え方はしていない。大丈夫だ」
「この前熱出してたもん」
「一日で治っただろ。逆の立場なら俺の事放っておけるのか?」
その質問はずるい。
放ってなんておけるはずがない。
そんな気持ちが表情に出ていたんだろう。私の顔を見た零くんは、「だろ?」と言いながら口角を上げた。
「だから気にしなくていい。分かったか?」
「・・・・・・分かったような、丸め込まれたような・・・」
「ふっ、気の所為だよ。ほら!とりあえず飯作ったから食べろ。朝から何もたべてないんだろ?」
そう言うとベッドから立ち上がり、キッチンへ向かうと美味しそうな香りを漂わせているお粥を運んでくる彼。
ベッド横に再び腰を下ろすと、彼は当たり前のようにレンゲにお粥をのせ私に差し出した。
「ほら」
「・・・っ、自分で食べれるよ」
「うるさい。いいから口開けろ」
問答無用とはこの事だろう。恥ずかしさから全力で拒否する私なんて無視で、零くんはレンゲを軽く持ち上げる。
そういえばいつかもこんなやり取りをした気がする・・・・・・。あの時よりも些か強引さを感じるのは、私達の距離が近付いたからなんだろうか?
観念した私は、大人しく口を開ける。
口に運ばれたお粥は、冷ましてくれたおかげか程よい温度。美味しそうな香りはするのに、熱のせいで味が分からないことが悲しく思えてくる。
まるで雛にエサを与える親鳥のように、私にお粥を食べさせ続ける零くん。
彼はようやく空になったお皿を横に置くと、そのまま錠剤の薬と水を差し出てくる。
「ほら、薬。自分で飲めるか?」
「ありがとう・・・」
素直に薬と水を受け取り、そのまま口に水を含み錠剤を飲み込む。ごくん、っと薬を飲み込む私の姿を見ながら、面白くなさそうに片眉をわざとらしく歪めた彼。
「……なんでしょうか…?」
スルーするわけにもいかず、彼に尋ねる。
「よくあるだろ。こういうときに薬のめないから口移しでと……「ない!…っごほ!!ごほ!!」
予想の斜め上のことを言われて思わず言葉を遮ってしまう。思いがけず大きな声を出したせいで、咳が出た。
そんな私の背中を笑いながらさする優しい手。
「悪い悪い、冗談だよ。少しは元気出たか?」
「……らしくない冗談すぎるよ」
ジト目で軽く睨むと、「悪い悪い」と笑った零くん。
「ほら、薬も飲めたんだし横になって休め」
そっと私の両肩に手を置き、優しくベットへと倒される。そのまま布団をかけてくれると、彼の右手が私の頭に伸びる。
そのまま一定のリズムで頭を撫でる手。
そっと撫でてくれるその温かさに、ゆるゆると眠気が波が襲ってくる。上瞼と下瞼がくっつきそうになるのを堪え、彼を見た。
「我慢しなくていいから、さっさと寝ろ。寝なきゃ風邪も治らない」
頭を撫でていた手は、私の両目を軽く覆った。
塞がれた視界。
そういえば彼はもう何時間ここにいるんだろうか。寝てた時間が四時間なら、それより長くここにいるということ。会う約束はしていたけれど、多忙な零くんのことだ。予定があったんではないだろうか。
ぐるぐると色々なことを考えるが、熱のせいか上手く思考が回らない。
眠りたいのに眠りたくない。
起きたらきっと彼はいないんだろう。
寂しい気持ちがふつふつと湧き上がってくる。
当然だ。ここまで看病してくれたのに、まだ一緒にいて欲しいなんて烏滸がましいにも程がある。
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