▽ 1-3
体調を崩すと人間弱気になるもので、“ひとり”というものに対して不安になる。
どうしたって子供の頃の一人ぼっちの部屋を思い出してしまう。
「・・・・・心配しなくても朝までここにいる。なまえが起きるまで、一緒にいるから」
そんな私の不安は、彼にはお見通しだったようだ。
いつか自分がしたのと同じように、そっと私の手を握ってくれる彼。
「・・・・・忙しくないの・・・?」
いい大人になってまで、寂しいという気持ちを見透かされてることが少し恥ずかしくなる。布団を目の下まで引っ張り隠れながら呟く。
そんな私を見て、零くんは少し困ったように笑った。
「忙しくないといったら嘘になる。でも今のなまえをほっといてまで、やらなきゃいけないことはない。俺がここにいたくているんだ。気にしなくていい」
私を見る彼の瞳はいつも優しい。
甘ったるい台詞はなくても、彼が私を想ってくれていることがひしひしと伝わってくる。
「・・・・・・・・ありがとう・・・」
「わかったら早く寝ろ」
零くんの言葉に安心して瞳を閉じる。
「・・・・・ったく、こんな時くらいもっと素直に甘えてくれればいいのに」
遠くで彼の声が優しく響く。
その日はなんだか素敵な夢を見た気がする。
熱で体はしんどいはずなのに、あったかくてぽかぽかとした夢。
遠くで聴こえる零くんの声。私の名前を呼ぶその声は、どこまでも優しい響きを伴っていて、自然と胸が温かくなる。
翌朝、カーテンの隙間から差し込む太陽の眩しさで目が覚めた。
昨日に比べて体は軽い。熱もきっと下がってきているのだろう。
零くんと左手と繋がれたままの自分の左手。その隣で右手に携帯を持ったまま、ベッドに突っ伏して小さな寝息を立てている彼。
きっと仕事の連絡をしていたんだろう。
「忙しいのにありがとう」
ぽつりとこぼれたひとりごと。
夢の世界にいる彼に届くことはないのかもしれない。けれど自然とこぼれた言葉。
体調を崩した時、こうして誰かが隣にいてくれることはこんなに心がほっとするものなんだ。
「・・・・・・んっ、起きたのか?」
私の目覚めた気配で、零くんも目を覚ましこちらを見る。
少しだけ眠そうな瞳と視線が交わる。
「昨日はありがとう。たぶん熱も下がったと思う」
「よかった。昨日より顔色もいいし、安心した」
「昨日そんなに酷かった?」
「あぁ。なのに大丈夫とか言うから・・・。辛い時はちゃんと頼ってくれ」
零くんは携帯から手を離し、そのままぽんぽんと私の頭を撫で髪を梳く。
その感触が心地よくてその温もりに甘えてしまう。
「猫みたいだな」
手にすり寄った私を見て彼は優しく笑った。
Fin
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