君がいない隣 | ナノ
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▽ 二つの歯車



そうと決まればなまえに会わなければ、そう思ったところではたと気付く。


「あいつ今どこにいるんだ・・・」


家を出て行ってからのなまえの行方を俺は知らない。


「・・・職場で待つしかないな」




翌日。


夕方までに全ての予定を済ませた俺は、なまえの働く会社の玄関が見える場所に車を停めた。


一時間・・・二時間・・・。


何時に終わるかなんて知らない。
もしかしたら今日は休みかもしれないし、既に帰宅したかもしれない。

それでもまだここにいると信じて、ただなまえが出てくるのをじっと待つ。


思えば彼女を待つなんて初めてかもしれない。


「・・・・・・いつも待たせてばかりだったな・・・」


待たせることしかなかった俺は、待っている側の気持ちなんて今日まで知らなかった。


・・・・・・こんな気持ちなのか。


「・・・いた」

一人で会社から出てくるなまえの姿をとらえる。


「なまえ!」
「・・・零?何してるの、こんな所で」
「話がしたい。車に乗ってくれないか」
「・・・・・・」


暫しの沈黙の後、彼女は黙って車に乗った。


俺の話を聞く気になってくれたのか、それとも職場の前で言い合いをする気にはなれなかったのか・・・・・・。

どちらにしても俺にとっては好都合だ。





「なに?」


近くの公園の駐車場に車を停め、重苦しい空気が漂う車内で先に口を開いたのはなまえだった。


「この前は悪かった」
「・・・・・・いいよ、別に謝ってくれなくても」


彼女がこんな風に冷たい口調で俺に接するなんて、今までにはなかったことだ。

その事実に胸が痛くなる。


「わざわざ謝るために待ってたの?」
「・・・・・・いや、それだけじゃない」


自分の想いを口にするのは、こんなに勇気のいることだったんだろうか。

彼女の気持ちが離れたかもしれない今は、なおさらそれを強く感じる。


小さく息を吐くと意を決して口を開く。


「戻ってきてほしいんだ」


やっとの思いで紡いだ言葉はなんの捻りも飾りげもないものだった。


「・・・・・・ごめんね」


なんでそんな表情をするんだ・・・。

今更何を言っているのかと罵られることは覚悟していた。


けれどそんな今にも涙が溢れそうな瞳を向けられるなんて思ってもみなかった。


「・・・・・・ごめん、もう駄目なの」
「・・・・・他に好きな奴ができたのか?」


頭に浮かぶのはあの男。

知らず知らずのうちにハンドルを握る手に力が入る。


「好きな奴?・・・・・・誰の事言ってるの?」
「この前一緒にいただろ?」


身に覚えがないと首を傾げるなまえに、あの男の名前を伝えれると納得したように「あぁ、あのとき・・・」と呟く彼女。


「昴さんは友達だよ。へこんでた私のこと心配して気晴らしにって誘ってくれたの」


だから恋愛感情なんてない、そう言うなまえ。


「じゃあなんで・・・」
「・・・・・・このまま一緒にいたら私は零にひどい事を言っちゃうと思うの」
「え・・・?」
「仕事が忙しいことも、なかなか会えないこともちゃんと頭では仕方ないって理解してるの。それでももう限界なの・・・・・・、あの家で一人で待つのはもう辛い・・・」


ぽたりと一粒の涙が彼女の頬をつたう。

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