▽ この気持ちの名前は
「酷い顔ね」
ああ、やっぱり言われてしまった。
助手席に座り、俺の顔を見るなりベルモットはため息をこぼした。
「そんなに酷いですか?」
「ええ、食欲が失せるわ」
今日はこのまま家まで送ってちょうだい、そう言うと彼女は俺から視線を外した。
*
ベルモットを送り届けた後、近くの公園に車を止めて数時間前に別れたなまえのことを思い出す。
「何がしたかったんだ・・・俺は・・・」
薬のおかげか少しまともな思考を取り戻した頭で考える。
なまえがいなくなってからの日々、
まるで心が欠けたかのような感覚に襲われた。
なまえが沖矢昴と一緒にいるのを見たとき、
隠し切れない苛立ちを覚えた。
あの部屋で再びなまえの体温を感じたとき、
離したくないと思った。
沖矢昴・・・・・・いや、他の男の所になんていかせたくない。
「・・・・・・あぁ、これが」
好きという気持ちか。
ストンと自分の中で答えが出た気がした。
「好きなの。私と付き合ってください」「ねぇ、零。一緒に住まない?」「大好きだよ」いつも気持ちを伝えていたのはなまえだけだった。
嫌いじゃないし、他の奴らに比べれば大切だとは思っていた。
けれどなまえが俺に向ける気持ちとイコールかと問われると、素直に頷くことはずっと出来ずにいた。
それが失ってみて初めて気付く。
「・・・・・・俺にはあいつが必要なんだ・・・」
代わりなんていない。
なまえだからここまで一緒にいられた。
「馬鹿だな、俺は・・・・・・」
もう遅いのかもしれない。
なまえの気持ちは俺から離れてしまったのかもしれない。
頭の中にあの男と並び歩く彼女の姿がよぎる。
例えそうだとしても・・・・・・、
この気持ちは伝えたい。
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