▽ 苛立つ心
「たまには何か手の込んだものでも作るか・・・・・・」
ひとり車を走らせながら呟いた後、ここ数日で独り言が増えたことに気付く。
今までも俺はそうだったんだろうか?
そこまで考えてはたと気付く。
・・・・・・今まではなまえが隣で相槌を打っていたんだ。
俺が話しかければいつでも答えてくれた。
独り言のように呟いた言葉にも彼女は反応を返してくれていた。
「あれから一週間か・・・・・・」
もう一週間なのか、
まだ一週間なのか・・・。
*
そんなことを考えながらやってきたのは、車を少し走らせた場所にある大型スーパー。
何を買うかなんて決まっていない俺は、目についたものを次々に買い物カゴへと放り込んでいく。
「・・・・・・です・・・ね!」
「・・・・・・い・・・すよ」
ふと耳に入ってきた男女の声。
聞き間違えるはずがない。
───・・・・・・なまえの声だ。
思わず人気のない商品棚の影に隠れる。
「やっぱりオムライスはデミグラスソースですよ!トマトソースはまた今度ってことで」
「なまえさんの好きなものでいいですよ」
「わーい!ありがとうございます」
ニコニコと笑顔で隣の男に話しかけるのは、数日前まで俺の隣にいた彼女。
そんな彼女が今笑顔を向けているのは・・・・・・
「なんで沖矢昴と一緒にいるんだ・・・」
今日もあの日と同じくハイネックを着たあの男。
なまえと奴にどういう接点があるのかはわからない。
「あ、昴さん!これもいいですか?」
「かまいませんよ。お付き合いします」
両手に酒の缶を持ったなまえが沖矢昴に駆け寄る。
それを笑顔で受け入れる奴の姿に苛立ちを覚える。
なんであいつに笑いかけているんだ。
彼女が笑いかけるのは、いつだって俺だったはず・・・・・・。
・・・・・・ああ、そうか。
俺と彼女はもう他人なんだ。
なまえがどこで誰と何をしていても、俺には口を出す権利なんかない。
「・・・・・・っ、くそ!」
楽しげに話しながら去っていく二人の姿を見つめながら、俺は何もすることが出来なかった。
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