君がいない隣 | ナノ
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▽ 戻らない時間



あの日見た二人の姿が頭から離れない。


彼女の隣にいたのが沖矢昴であったことよりも、別の男に笑いかけていたという事実が俺を苛立たせた。


「安室さん、今日はなんだかお疲れですか?」
「・・・っ!いえ、大丈夫ですよ」
「ならいいけど、眉間にシワよってましたよ」

こんな感じで、と俺に向けて顔を顰める梓さん。


思わずガラスに反射した自分の顔を見る。


・・・・・・確かに安室透はこんな表情はしないな。


ふぅ、と息を小さく吐くと気持ちを入れ替える。


今の俺は、安室透だ。


どうにかなまえのことを頭から追い出そうとするも、片隅で彼女の笑った顔がこびり付いたように離れなかった。




会いたくないと思う相手に限って、こうも偶然に出会ってしまうのは何故なんだろうか。


「貴方はこの前の宅配便の・・・」


バイトが終わり、ポアロの近くのコンビニに寄り買い物をしていると後ろから声をかけられる。


「こんにちは。あの時は急にお邪魔してすいませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ」


人当たりのいい笑顔を浮かべる目の前のこの男相手に、俺はちゃんと笑えているんだろうか。


くそ・・・、今日に限ってレジが混んでいる。

さっさと離れたいのに、この男と並んでレジを待つ羽目になるなんて最悪だ。


「そういえばこの前あそこのスーパーにもいらっしゃいましたよね?」
「え?」
「貴方をお見かけしたような気がしたんですが・・・・・」


人違いですかね?と首を傾げる奴は、やっぱり食えない男だ。


あそこにいたのは俺だという確信を持って聞いてきていることが、その目から伝わってくる。


「あぁ、いましたよ。仕事が休みだったので買い物に」
「やっぱりそうでしたか。お声かけすればよかったですね」


冗談じゃない。

どんな顔でこの男と並ぶなまえに会えと言うんだ。


「・・・・・・一緒にいた女性は恋人ですか?」


何を聞いているんだ、俺は。

深く考えることなく発した自分の言葉に思わず動揺してしまう。


「あぁ、彼女ですか?恋人だったらよかったんですけどね」
「違うんですか?」
「僕の片思いですよ」


臆することなくさらりと言ってのけた沖矢昴の姿に、ペットボトルを持つ右手にギリッと力が入る。


「最近恋人と別れたみたいで。これで少しでも僕を見てくれるといいんですけどね」


返す言葉が見つからない。


なまえは昔から男女問わず友人が多かった。

けれど男女の線引きはきっちりとする奴だった。


そんな彼女がこの男と二人きりで出かけたということは、なまえの方も悪い気はしていないということなんだろうか。


「次お待ちのお客様〜、どうぞ」
「あ、レジ空きましたよ」
「・・・っ、はい。じゃあ失礼しますね」


いつの間にか俺の順番がきていた。

これ幸いとばかりに沖矢昴から離れる。


よかった・・・・・・。


このまま彼と対峙していると、笑っていられなくなる気がした・・・・・・。

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