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▽ The watch which still stopped



「やっぱり来てたんだな」

橙色に染まった空を見上げていると、後ろから声がした。


何か特別な話をするわけじゃない。

お互いの身の上を詳しく語ることはなかった。
ただ今日あった出来事を話す彼の隣に座り、相槌をうつ私。
キラキラとした瞳で話をする彼の横顔を眺めているのが好きだった。

私にはないその真っ直ぐな瞳が・・・・・・。


何も聞いてこないのは、きっと彼の優しさだろう。

あの日から止まっていた心が、少しずつ動き始めたような気がした。





彼と会うのも何度目かになってきた時、私の髪に触れながら彼が聞いた。


「綺麗な色だな」
「・・・・・・そんなことないわ」
「この髪の色が嫌いか?」
「嫌いよ。髪の色も瞳の色も」


鏡を見るたびにもういない両親を思い出す。


それに多数派に合わせることを正しいとするこの国で、私という存在は浮いていた。
特にあの家の中だと尚更だ。


「貴方は嫌いじゃないの?」
「この髪か?別に何とも思ってないな」
「そっか・・・・・・」
「人間の本質なんて見た目じゃわからない。見た目の違いなんて大した問題じゃない」


昔はよく揶揄われたけどな、と笑う彼の笑顔はとても眩しかった。


「お父さんに似てるの・・・・・・私。けどもういないから」
「そっか」
「だから嫌いよ・・・・」


会えないとわかっているなら、もう会いたいなんて思わない。


「淋しかったんだな・・・・・・」
「・・・・・・っ・・・」
「よく頑張った」

そっと私の頭の撫でる彼の手がとても優しくて、思わず涙がこぼれそうになる。


両親がいなくなってから、誰かにこんな風に言ってもらうなんて初めてだった。


一粒・・・・・・そしてまた一粒・・・、私の頬を涙がつたう。


心の中に溜まったどす黒いものが、涙とともに流れ落ちるような気がした。


「泣きたいときは泣けばいい。じゃなきゃ心から笑えなくなる」
「・・・っ・・・、そんな・・・のっ・・・」
「よしよし、無理しなくていいから」
「・・・子供扱い・・・っしないで・・・」
「まだ子供だろ」

そう言って笑った彼は、どこまでも優しい表情だった。




戻れると思った。

壊れかけていた私の心は、同じ瞳を持つ彼との出会いで少しずつ元に戻っていると・・・・・・。


今思い返してみると、彼と過ごしたのはたった一週間にも満たないとても短い期間だった。

それでも両親を亡くしてから、こんなに誰かに会うのが待ち遠しいと思ったことはない。

私の存在を受け入れてくれた彼の言葉は間違いなく私を救ってくれた。


ああ、この頃に戻れたならどんなに幸せだろうか・・・・・・。


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