You don't know me | ナノ
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▽ In this hopeless world



「お母さん、なんでなまえの目って変な色なの?」
「あれはね、バチが当たったのよ。あの子やあの子のお母さんが悪い事をしたせいなの」
「ふーん。なまえのお母さんって悪い人なんだ」
「ええ、だからあの子と仲良くしちゃだめよ?」


部屋の隅に座る私を見ながらそんな会話を繰り広げるのは、戸籍上は私の叔母と従兄弟にあたる人だ。


バチが当たった・・・・・・?

私もお母さんも何も悪いことはしてない。それはお父さんだって同じだ。

悔しさから唇を噛むと、口の中に血の味がひろがる。





なんでこうなってしまったんだろう・・・。


両親の葬儀のあと、私は母の妹に引き取られた。


そこでの生活は今までとは正反対の日々だった。


存在を無視され、たまに口を開けば父や母の悪口ばかり。

きっと彼女は、私の全てが気に入らないんだろう。

そんな彼女の言葉を真似する息子と、見て見ぬふりを貫く夫。


ああ、息苦しい。

毎日毎日心が死んでいく。


私の何がいけなかったんだろう。

この髪の色?瞳の色?
それともあの両親の元に生まれたこと?





数日が経ち、数カ月が経ち・・・・・・。
一年を過ぎた頃にはもうなにも感じなくなった。


辛い、悲しい、その感情すら感じない。


いつの間にか学校に行くこともなくなり、家でも誰とも話すことはない。

息の詰まるような叔母の家にいることに耐えられなくなると、いつも近くの公園で時間を潰した。


ベンチに寝転がり空を見る。

月も星もない真っ黒な空。終わりなんて見えなくて・・・・・・暗闇がどこまでも続いている。


「消えたい・・・・・」


小さくつぶやいた声は闇に飲まれ消えていく。


この世界に一人ぼっちになった気分だ・・・・・・、自然と涙がこぼれる。



「大丈夫か?」


そんな私の思考を遮ったのは青い瞳。

「・・・っ・・・!」

急いで涙を拭いベンチから起き上がる。
目の前には明るい茶髪の男の人が立っていた。街灯に照らされた彼の髪がきらきらと光って見える。


「何かあったのか?日本語わかるか?」

泣いていた私を心配するように首を傾げる彼の瞳にを奪われる。


「あお・・・・・・」
「え?」


父親以外で自分と似た容姿の人に出会うのは初めてだった。




何も言わない私の隣に、少し間を空けて腰掛ける彼。
お互いに口を開くことはなく、公園の外で車や人がたまに行き交う音だけが響く。


「一人か?」
「・・・・・・うん」

沈黙を破ったのは彼の方だった。


「そっか。こんな時間に一人でこんなとこにいるのは危ないぞ。未成年だろ?」
「・・・・・・」
「はぁ、しばらく俺もここにいてもいいか?」
「・・・・・・え?」
「なにか帰りたくない理由があるんだろ?」
「・・・・・・うん」


彼は何も聞かなかった。
帰れと言うこともなく、ただ隣で他愛もない話をするだけだった。


人とこんなに話すのは久しぶりだ・・・・・・。


「さすがにそろそろ帰った方がいい。家は近くか?」
「うん、近く」
「一人で帰れるか?」
「大丈夫」


そう言って立ち上がる私と彼。

名前も歳も知らないこの人と、離れることが淋しいと感じるのはどうしてだろう。

彼の日本人離れした容姿に親近感を感じたから?
それとも久しぶりに誰かと話したから?


答えなんてわからない。


「また明日も来るのか?」
「たぶん来ると思う」
「明日はもっと明るい時間に来いよ」


ぽんっと私の頭に手を置く彼。

明日もこの人はここに来てくれるんだろうか?


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