▽ In this hopeless world
「お母さん、なんでなまえの目って変な色なの?」
「あれはね、バチが当たったのよ。あの子やあの子のお母さんが悪い事をしたせいなの」
「ふーん。なまえのお母さんって悪い人なんだ」
「ええ、だからあの子と仲良くしちゃだめよ?」
部屋の隅に座る私を見ながらそんな会話を繰り広げるのは、戸籍上は私の叔母と従兄弟にあたる人だ。
バチが当たった・・・・・・?
私もお母さんも何も悪いことはしてない。それはお父さんだって同じだ。
悔しさから唇を噛むと、口の中に血の味がひろがる。
*
なんでこうなってしまったんだろう・・・。
両親の葬儀のあと、私は母の妹に引き取られた。
そこでの生活は今までとは正反対の日々だった。
存在を無視され、たまに口を開けば父や母の悪口ばかり。
きっと彼女は、私の全てが気に入らないんだろう。
そんな彼女の言葉を真似する息子と、見て見ぬふりを貫く夫。
ああ、息苦しい。
毎日毎日心が死んでいく。
私の何がいけなかったんだろう。
この髪の色?瞳の色?
それともあの両親の元に生まれたこと?
*
数日が経ち、数カ月が経ち・・・・・・。
一年を過ぎた頃にはもうなにも感じなくなった。
辛い、悲しい、その感情すら感じない。
いつの間にか学校に行くこともなくなり、家でも誰とも話すことはない。
息の詰まるような叔母の家にいることに耐えられなくなると、いつも近くの公園で時間を潰した。
ベンチに寝転がり空を見る。
月も星もない真っ黒な空。終わりなんて見えなくて・・・・・・暗闇がどこまでも続いている。
「消えたい・・・・・」
小さくつぶやいた声は闇に飲まれ消えていく。
この世界に一人ぼっちになった気分だ・・・・・・、自然と涙がこぼれる。
「大丈夫か?」
そんな私の思考を遮ったのは青い瞳。
「・・・っ・・・!」
急いで涙を拭いベンチから起き上がる。
目の前には明るい茶髪の男の人が立っていた。街灯に照らされた彼の髪がきらきらと光って見える。
「何かあったのか?日本語わかるか?」
泣いていた私を心配するように首を傾げる彼の瞳にを奪われる。
「あお・・・・・・」
「え?」
父親以外で自分と似た容姿の人に出会うのは初めてだった。
*
何も言わない私の隣に、少し間を空けて腰掛ける彼。
お互いに口を開くことはなく、公園の外で車や人がたまに行き交う音だけが響く。
「一人か?」
「・・・・・・うん」
沈黙を破ったのは彼の方だった。
「そっか。こんな時間に一人でこんなとこにいるのは危ないぞ。未成年だろ?」
「・・・・・・」
「はぁ、しばらく俺もここにいてもいいか?」
「・・・・・・え?」
「なにか帰りたくない理由があるんだろ?」
「・・・・・・うん」
彼は何も聞かなかった。
帰れと言うこともなく、ただ隣で他愛もない話をするだけだった。
人とこんなに話すのは久しぶりだ・・・・・・。
「さすがにそろそろ帰った方がいい。家は近くか?」
「うん、近く」
「一人で帰れるか?」
「大丈夫」
そう言って立ち上がる私と彼。
名前も歳も知らないこの人と、離れることが淋しいと感じるのはどうしてだろう。
彼の日本人離れした容姿に親近感を感じたから?
それとも久しぶりに誰かと話したから?
答えなんてわからない。
「また明日も来るのか?」
「たぶん来ると思う」
「明日はもっと明るい時間に来いよ」
ぽんっと私の頭に手を置く彼。
明日もこの人はここに来てくれるんだろうか?
(この絶望にまみれた世界で)
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