純白のゼラニウムを貴方に | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ スイセン


毎日、毎日、よく飽きないものだと思う。


高校に上がりクラスが離れたみょうじは、最低でも1日3回は必ず俺のクラスにやって来た。

クラスの連中もそれに慣れたようで、もはや恒例行事のような扱いだ。



「最近姉貴の話しなくなったよな、陣平ちゃん」
「・・・・・・そうか?」
「うん。少し前は姉貴の話よくしてたし、たまたまあいつに会ったら露骨にへこんでた」

放課後、駅の近くにできたハンバーガー屋でポテトを齧りながら萩がそんな話をしてきた。

そういえば最近千速のことを考える時間が減った気がする。というか、萩に言われるこの瞬間まで頭に過ぎりすらしていなかった。


千速はまだあの時の男と付き合っていて、まぁそれなりに上手くやっているらしい。


少しだけ、まだ胸の奥がチリチリと焼かれたように痛い気はする。でもそれはあの日ほどじゃない。


人間の想いってのは時間の流れと共に風化していくものらしい。

俺の千速への想いも例外じゃない。まぁそんなもんか、初恋なんて。


「叶わないって分かってるんだ。時間が経ったら忘れるもんだろ、あんな気持ちなんて」
「ははっ、それ陣平ちゃんが言う?1番身近にいるじゃん。叶わない恋って分かってるのに、諦めの悪い女の子が」
「・・・・・・アイツは例外。頭おかしいから」


そう、みょうじがおかしいんだ。

報われない気持ちなんて普通は朽ちて消えていく。


高校に入学して半年が過ぎた今も、みょうじは毎日俺に付き纏っていた。


「少しは愛着とかないの?なまえに」
「ない。むしろアイツのどこを好きになれって言うんだよ」
「可愛いじゃん」
「・・・・・・俺は見た目より中身重視だから無理」


見た目がいくら良くたって、そんなのは歳をとれば変わっていくもの。人間は中身が大事に決まってるだろ。


我儘で自分勝手。俺∴ネ外に興味がなくて、他人の気持ちを考えられない。すぐに人を見下す。着飾ることに必死で中身を磨く努力をしない奴。


・・・・・・好きになる要素あるか?これ。


我ながら頭のおかしい女に好かれたものだ。


「でも何で陣平ちゃんなんだろうね」
「何が?」
「なまえの好きな人だよ。たしか小学校のまだ低学年の頃だったよな?アイツが陣平ちゃんに絡むようになったの」
「・・・・・・忘れた」
「ははっ、覚えてるくせに」

喉を鳴らしながら笑うと、萩は最後の1本だったポテトをひょいっと口に入れた。


たしかにみょうじが俺に付き纏うようになったのは、小2の夏頃だった気がする。

特別なことをした覚えはない。他のクラスメイトと同じように扱っていたと思う。


なんでアイツ俺の事・・・・・・。


「気になるなら本人に聞いてみれば?」
「っ、別に気になんねぇし」
「まぁなまえに“俺のどこが好き?”なんて聞いたら永遠に語られそうだな」


うわ、想像できちまった。萩の馬鹿野郎。

アイツのことだ、そんなことを聞けば朝まで語られそうな気がする。大袈裟なんかじゃなくて、みょうじの場合はガチだ。


「あんだけ全力で好きって伝え続けられてたら、俺なら落ちちゃうなぁ」
「萩はストライクゾーン広すぎなんだよ」
「女の子はみんな可愛いもん、当たり前だろ」

いつから俺の幼馴染みはこんなにチャラくなったんだ?俺と萩の恋愛観は天と地ほどかけ離れているらしい。


千速への想いが風化した今、きっとまた好きな女ができることもあるんだろう。


どんな奴か分からないけど、間違ってもみょうじみたいな奴はごめんだ。


強くて、真っ直ぐで、ちゃんと自分の足で立っている女がいい。口を開けば松田、松田って恋愛依存症みたいな女は絶対に嫌だ。


「俺はお似合いだと思うけどなぁ、陣平ちゃんとなまえ」
「・・・・・冗談でもやめろ、寒気した」
「ひでぇなぁ。ホント」

萩と俺は気が合うけれど、これに関しては徹底的に反論したいくらいだ。


俺とアイツがお似合い?勘弁してくれ。






季節は流れ、冬が来た。


緑色に生い茂っていた木の葉が散り、校庭の木々は随分と寒そうだ。吹き抜ける風もいつの間にか冷たいものに変わる。


本格的な冬はまだとはいっても、暦の上ではしっかりと冬なのだ。こんな寒い日マフラーも巻かず、短いスカートで登校する女がいたとするならそいつはきっと正真正銘の馬鹿だろう。


「っ、くしゅん!」

ほら、やっぱり馬鹿だ。

委員会があるらしく先に登校した萩。久しぶりに1人で学校に向かっていると、少し先に寒そうに背中を丸めるみょうじがいた。


短いスカートと寒そうな首周りは見ているだけで体が冷えそうだ。案の定、みょうじはくしゃみ繰り返す。


「・・・・・・おい、風邪ひくぞ」
「っ、!松田、おはよー!」
「お前マフラーは?スカートも短ぇし見てるだけで寒い」
「ちょっと寝坊しちゃって時間ギリギリでマフラー忘れたの。スカートは切ってるからこれ以上長くできない」


寝坊したというわりに、その目元はいつも通りキラキラしているし髪の毛もしっかりと巻かれている。


・・・・・・こいつの中の優先順位って。駄目だ、突っ込むのもアホらしくなってきた。


化粧・髪の毛 > 防寒

まぁみょうじらしいといえばそうなんだろう。


「・・・、くしゅん・・・っ!」
「・・・・・・はぁ。一応女なんだからあんま体冷やすなよ」

俺は自分の首に巻いていたマフラーをみょうじの首にぐるぐると巻きつけた。


いつもキラキラした派手な色を身に纏っているみょうじに、俺の真っ黒なマフラーは似合わなくて思わずくすりと笑みがこぼれた。


「っ、」
「何だよ、そんな驚いた顔して」
「・・・・・・松田が笑った」
「俺だって面白けりゃ笑うし」
「私の前で笑ってくれたの初めてだよ!無理、幸せすぎる!今の一瞬写真撮ればよかった!!」


大袈裟な奴。
別に俺はみょうじじゃなくても、ある程度顔と名前が一致して絡みのある女相手なら同じ行動をしただろう。


花が咲いたような笑顔で騒ぐみょうじは、俺のマフラーを鼻まで上げてぎゅっと抱きしめるようにそれに触れた。


「松田が私に笑いかけるなんて奇跡だもん!しかもマフラーまで・・・。私明日死ぬのかな・・・」

わぁわぁと一頻り騒ぎ終えると、今度は空を見上げながら見たこともない神様とやらに感謝を始める。


頭いいくせにやっぱりアホだなぁ。


「ばーか。んな事で死なねぇよ」

そう言い残すと、俺はみょうじの横を追い越してすたすたと歩く。朝からうるさい奴だ、まだ眠気の残る頭にみょうじの高い声は毒だ。ガンガンする。


「っ、待って!萩原一緒じゃないの?」
「萩は委員会の仕事あるから先行った」
「だったら私も一緒に行く!」
「・・・っ、おわ・・・?!・・・急に飛びつくんじゃねぇーよ!」

ぱたぱたと走ってきたみょうじは、その勢いのまま俺の背中に思いっきり抱きついていた。予想していなかったその勢いに、ぐらりと体が傾きそうになるのを寸で堪える。


周りを歩く同じ学校の生徒達の視線が突き刺さる。くそ、勘弁してくれよ・・・。


「離れろ。歩きにくい」
「ヤダ!今充電してんの!」
「はぁ?充電?」
「今日午前中移動教室ばっかりだから会いに行けないもん。昼休みまで会えないとか死ぬ!だから今その分を補ってるの!3秒でいいから!!お願い!!」


よし。俺の今日の午前中の安寧は保証されたらしい。

心の中で小さくガッツポーズをする。


「いちーにーさん。はい、3秒経った。さっさと離れろ」

俺はみょうじの腕を解くと、わーわー騒ぐアイツを無視してそのまま足を進める。


ホント面倒臭い女だ。こんなことならマフラーなんて貸すんじゃなかった。


少し前の自分の行動を悔いる。


すぐに俺に追いついたみょうじは、触れてこそこないが隣でくだらない話をあぁだこうだと1人で話していた。


「おう、松田おはよー!あ!みょうじさんもおはよ」
「なまえちゃん今日も可愛いなぁ。一緒に登校?珍しいな」

学校までの道、最後の角を曲がると同じクラスの男子2人が声をかけてきた。


「はよ。別にそんなんじゃねぇよ」
「朝からこんな可愛い子と会えるなんて幸せだよなぁ、松田」
「・・・・・お前ら目おかしいんじゃね?コイツのどこが可愛いんだよ」
「おかしいのはお前だよ、松田。ね。なまえちゃん」

片方の男子がそう言いながらみょうじの顔を覗き込む。その頬はにやけを隠しきれてなくて、やっぱ趣味悪ぃなぁなんて思う。


みょうじは、チッと舌打ちをするとそのままそいつを下から睨んだ。


「うるさい。勝手に名前で呼ばないで。てか話しかけんな、鬱陶しい」

ほら、な。
コイツのどこがいいんだか。

さっきまでニコニコしながら俺に話しかけていたのが嘘みたいに、全面的に不快感を露わにする。


「っ、ごめんごめん!怒んないでよみょうじさん」
「でも美人は怒った顔も可愛いよねぇ」

まじか、コイツら。
やっぱ理解できねぇ。


わーわーと騒ぐ奴が2人増えたことに、心の中で深い、深いため息をついた。

prev / next

[ back to top ]