純白のゼラニウムを貴方に | ナノ
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高校2年になった私達。

配られた新しいクラスの書かれた紙には、『2-4』と書かれていた。


「なまえちゃん4組なんだ、離れちゃったね」
「あ!私5組だから隣だよ!」
「私4組だ!また1年間一緒だね」

私を取り囲む取り巻きの女A.B.Cは勝手に私の手元を見ながら口々に話す。


そんなことより私には大事なことがある。


松田のクラスが何組なのか。それ以外に興味なんてない。


「お、なまえ4組なんだ」
「勝手に見ないでよ」
「じゃあ俺のやつも見せてあげる」


私の手元からするりと紙を取り上げた萩原は、自分の名前の書かれた紙を私の顔の前でひらひらとさせる。


「・・・・・・・・・まじで無理、最悪、無理、ヤダ」
「ははっ!また1年間よろしく〜」

その紙には私と同じ『2-4』の文字。


これで松田とまたクラスが離れたら、神様なんて呪ってやる。


チャイムが鳴ると同時に、新しい教室へと急いだ。

開けっ放しになっていた扉から教室に入ると、中にいた生徒達の視線が突き刺さる。


そんな視線なんて無視して、私は黒板に貼られた座席表の前に立った。


隅から隅まで食い入るように見つめる。


「陣平ちゃんは3組だからここにはいないよ」

そんな言葉と共に頭にかかった重み。
私より背の高い萩原が私の頭を肘置きにして、ニヤリと笑う。


・・・・・・神様なんて二度と信じない。
初詣のとき、奮発してお賽銭1000円入れたのに。足りなかったのかな・・・。神様って意外と強欲?

5000円入れてたら・・・、なんて後悔してももう遅い。


「っ、てか松田3組なの?!」
「うん。さっき廊下で会ったとき言ってた」
「隣だよね、教室!1年の頃よりマシじゃん!」
「相変わらず健気だねぇ」

萩原の腕を払うと、私はそのまま隣のクラスを覗き込む。


窓際の後ろから2番目の席。

怠そうに欠伸をするその姿に自然と目尻が下がる。



「松田ー!!クラス隣だった!去年より近くなったね!」
「・・・・・・最悪。同じクラスじゃないだけマシか」

ひらひらと手を振る私にため息をついてふいっと目を逸らす。

気だるそうなその顔すらかっこよく見えるんだからどうしようもない。


私は3組の教室に入ると、そのまま松田の前の席に座り彼の机に肘をつく。


「・・・・・他のクラス入ってくんなよ」
「いいじゃん、まだ休み時間なんだし。てか聞いてよ!また萩原と同じクラスなんだけど!それなら松田と同じが良かった!」
「うるせェ・・・。耳元でデカい声出すな」
「去年は教室離れてたからあんまり会いに来れなかったけど、隣なら毎時間来れるね。あ!しかも体育同じじゃん!やったー!」
「お前の“あんまり”の概念バグってんだろ。てか、それ最悪・・・」


心底嫌そうに顔を歪める松田。

それでも私のことを無視せずこうして相手してくれるんだから、何だかんだ優しいんだと思う。


「・・・・・・あの、そこ私の席で・・・」
「だから何?今話してるの見えない?」

そんな私の幸せな時間を遮ったのは、ダサい眼鏡をかけた女。おどおどとしたその態度が苛立ちを煽る。


キッと睨むとそいつはびくりと震える。


松田と喋ってるんだから邪魔すんな、ブス。


「・・・・・お前そういうのやめ・・・「そこ、この子の席なんだからみょうじさんが退くのが当たり前でしょ」


呆れたように私を止めようとした松田の声を遮ったのは、彼の後ろの席にいたショートの女のそんな一言だった。


「・・・・・・はぁ?誰、アンタ。関係なくない?」
「関係ないのはみょうじさんでしょ?ここ3組だから。松田に会いに来るのは勝手だけど、うちのクラスの子に迷惑かけないで」

その女の目がじっと私を睨む。その目と視線が交わった瞬間、心臓がどくん、と嫌な音をたてた。

なに、この女。
松田に言われたなら素直に聞いただろう。
でも名前も知らないこんな女に文句を言われる筋合いはない。


「っ、アンタ・・・「どう考えてもこいつの言うことが正論だろ。さっさと教室戻れって」

今度こそ、私の言葉を遮ったのは松田だった。

なんでそんな女の肩持つの?


「なまえ〜、先生来るからそろそろ戻ってこいよー」
「っ、」
「あれ?なんかあった?」

ピリピリと張り詰めたそんな空気を破るように、いつもと変わらない調子の萩原が教室を覗き込む。


ムカつく。すごくムカつくけど、そんな萩原の登場に正直少しだけ救われた。


「っ、今戻る!」

私はバン!と勢いよく立ち上がると、きょとんしている萩原の隣をすり抜け自分の教室へと戻った。


松田が私じゃない女の肩を持つことに腹が立った。

私に偉そうに意見してくるあの女がウザかった。大抵の女子は、私に嫌われることを怖がって表面上は私の言うことを全肯定する。裏で悪口を言っていることなんて知ってたけど、そんなことどうでもよかった。


面と向かって噛み付かれたことは初めてだっからこんなに腹が立つんだ。




・・・・・・そして同じくらい、怖かった。


松田の好きなタイプなんて、ずっと近くで見てきた私が1番分かっている。


あいつは外見なんかで人に惚れたりしない。中身で人間を見る。


それでも好み、ってものはあるんだろう。


あのウザい女の雰囲気が、少しだけ、ほんの少しだけ千速さんに似てたから。


他人の為に私に噛み付いてくる女。

松田は、正義感≠ネんて私が欠片も持ち合わせていないものを持つ女に惹かれるから。



「顔色悪くない?なんかあった?」
「・・・・・うるさい、黙れ萩原」
「ふっ、迫力ねぇなぁ」

席に座り突っ伏した私の隣に座った萩原が小さく笑う。


てかなんで今回もこいつが隣の席なのよ。


やっぱりお賽銭、1万円入れたらよかった・・・。

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