純白のゼラニウムを貴方に | ナノ
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▽ イチゴ



「陣平ちゃんも悪いよなぁ〜」
「は?どういう意味だよ」
「なまえの気持ち、知っててアレだもん。突き放したかと思えば、あぁやって期待を持たすようなことしてさ。しかもそれを無意識でやってるからタチが悪い」


期待を持たす?
いつ俺がそんなことしたんだよって、目の前で困った顔をする萩に言いたくなった。



ただあの時のイラつきを言葉では説明できなくて。


「なまえのこと、ホントはどう思ってんの?」
「・・・・・・どうもこうもねぇよ。俺はあんな自己中で我儘な女は嫌いだ」
「へぇ。だったら彼女でも作れば?」
「は?何でそうなんだよ」
「だって陣平ちゃん全然そういうの今までなかったじゃん。そうすりゃなまえも心置きなく他に男作るかもしれねぇし」


告られたことがないわけじゃない。

でも昔から俺が女に呼び出されると、何故かみょうじがくっついて来た。アイツのいない所で告ってきた奴もいたけれど、数日後には怯えた顔で「やっぱりこの前の告白なかったことにして欲しい」なんて言われたっけ。


多分、いや絶対、みょうじに何か言われたんだろうなって心の中でため息をついた。


別に好きな奴じゃなかったから。それ以上俺がその女に構うと、それこそみょうじが何をしでかすか分からない。だから放置していただけのこと。


いつしか同じ学校の連中は、俺を通してみょうじを見るようになっていった。


「まぁ彼女とまではいかなくてもさ、女の子と遊ぶのもたまにはありだよ」
「・・・・・・お前と一緒にすんな」
「ははっ、女の子はいいよ。優しいし可愛いし柔らかいし♪」


最後によくわかんねぇもん混じってるぞ。楽しげに笑う萩にそう突っ込む気力もなかった。



みょうじに他の男、ねぇ。


俺以外の男を一切寄せつけないアイツ。けど昨日見た光景は、今までのそれとは違っていた。


さっきの泣いていたアイツを見る限り、多分まだ俺のことが好きなんだと思う。


俺に女ができたら諦めるのか?アイツも。



何故か、「松田!」って甲高い声で名前を呼びながら駆け寄ってくるみょうじの顔が頭に浮かぶ。



・・・・・・いや、ない。有り得ない。


それを追い出すかのように、小さく頭を振った。







その日も別のメンバーで飲み会があると、萩に連れてこられた居酒屋。


昨日俺に連絡先を聞いてきた女もそこにいて、その場にみょうじがいないことを確認すると隣に座ってきた。



ふわりと香るのは甘い匂い。あのうるさい女とは違って、柔らかいその匂いはどこか居心地が悪い。


「昨日、途中で帰っちゃったんだね。もっとゆっくり話したかったから今日会えて嬉しい。連絡返ってこなかったから、嫌われたかなぁって不安だったんだ」
「あー、悪ぃ。携帯あんま見てなかった」


そういえば何かメッセージきてたな。

昨日はイラついたまま家に帰って、そのまま布団に携帯投げ捨ててた気がする。



「昨日はみょうじさんと帰ったの?」
「いや、普通に1人で帰った」
「そうなんだ。みょうじさんもカラオケにいなかったから、てっきり2人で帰ったのかと思ってた」


ニコニコとした笑顔を崩さずみょうじの名前を出す彼女。その名前を聞く度に、何故か神経を逆撫でされるかのような気持ち悪さ。





「松田くんってみょうじさんと付き合ってるの?」
「・・・・・・はぁ?」


思わず大きな声を出した俺に、びくりと肩を揺らす彼女。

慌てた様子で口元に手をあてながら謝ってくる。


「あ、ごめん!気を悪くしちゃったなら謝る!昨日仲良さそうだったから、もしかしてって思っただけなの」
「いや、俺こそデカい声出して悪い。アイツとは昔から学校が同じだったってだけ」
「そっか。ならよかった」



ぽつりと呟かれた言葉と、安心したような笑顔。その意味が分からないほどガキじゃない。



緩く巻かれた長い茶髪に、小動物みたいにふわふわとした雰囲気。派手じゃないけど、多分男受けするであろう彼女。


まぁ可愛いとは思うよな、普通に。



間違ってもギャンギャンと喚き散らかすようなタイプではなさそうだ。アイツ≠ニは違う。



彼女と俺の会話は、他愛もないものだったと思う。そいつに振られた話に適当に答えていると、向かいの席にいた萩と目が合った。


ニヤリ、と笑った萩に何となくイラッとした俺はそのまま近くにあったグラスに手を伸ばした。



時間は流れ、今日も今日とて二次会に行く流れになる。カラオケになんて行く気分にもなれなかった俺は、萩に一声かけて帰ろうと思っていた。


外に出ると、不意に後ろから服の袖を引かれ振り返る。


そこにはさっきまで話していた彼女の姿。


「松田くん、カラオケ行くの?」
「いや、帰ろっかなって思ってた。どうかしたのか?」
「・・・・・・もし良かったら、2人で抜けない?」


熱っぽい視線。何度もアイツから俺に向けられたのと同じだ。


上目遣いで俺を見上げる彼女の真意に、いくら鈍感な俺でも気付かないわけがない。


きっとコイツも隠すつもりはないんだろう。



「彼女でも作れば?」


頭を過ったのは昼間の萩の言葉。


別に彼女って存在が欲しいとは思ってない。



「まぁ彼女とまではいかなくてもさ、女の子と遊ぶのもたまにはありだよ」



「私ね、松田くんのこといいなって思ってたんだよね」


それはまるで背中を押すような言葉。

艶っぽい声でそう言った彼女は、そっと俺の腕に触れた。



「別に付き合って欲しいとかは言わないから。ちょっとだけ、遊んでみない?」


小動物みたいだと思っていたその瞳に、ちらりと見え隠れする欲。


女って分かんねぇな。

さっきのしおらしい様子の彼女も、今の女として欲を隠さない様子の彼女も同一人物なんだから。



その点、アイツ≠ヘいつも変わらない。


分かりやすすぎるくらい単純な奴。



「分かった。一緒に抜けよっか」
「っ、ホント?!嬉しい!」


忘れられると思った。


意味わかんねぇこのイラつきも。何故か頭から離れないアイツの顔も。

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