純白のゼラニウムを貴方に | ナノ
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▽ イチゴ



軽々しく好きなんか、今まで1度も言ったことない。


伝えたくても伝えられない想い。口に出せばそれが負担になる。だからずっと口を噤んでいたのに、過去の気持ちまで否定されたら・・・・・・。



「・・・・・・松田のバカ」
「松田くんと何かあったの?」


ぽつりと呟いた私の言葉に返事が返ってきて、思わず声のした方に顔を向ける。


無駄に広い教室でいつの間にか隣の席にいたのは香織で、新作のフラペチーノ片手にニヤリと笑みを浮かべながらこちらを見ていた。



「別に。何でもない」
「昨日から気になってたんだよね〜。やっぱり松田くんのこと好きなの?」
「・・・・・・、」
「私はてっきり萩原くんの方かと思ってたよ。よく喋ってるし仲良いじゃん」
「ない、絶対ないから。ありえない」
「ははっ、やっぱりじゃあ松田くんが好きなんだ」


なに、この誘導尋問。

諦めからか小さくため息をつく。


「まぁまた話したくなったら話してよ。てか聞いて、昨日の二次会さぁ〜・・・」


そんな私を見て、昨日の二次会での出来事を話し始める香織。


香織と一緒にいて楽な理由はこれだ。


彼女は人との距離感のとり方が上手い。

必要以上に踏み込んでこないから、一緒にいて嫌な気持ちにならない。今だって私が松田のことを話したがらない以上、彼女が踏み込んでくることはない。



「そういえば、女連中の一部がカラオケに松田くん来てなかったの残念がってた」
「・・・・・・なにそれ、」
「萩原くんの取り巻き連中の一部に、最近松田くん人気あるんだよ?」


萩原の周りには、いつも無駄にキャピキャピしたうるさい女が多い。もちろん萩原と一緒にいるのことの多い松田の傍にソイツらがいることも多かったけど、彼女達の目当てはあくまで萩原だったから。そこまで深く気にはしていなかった。


なんでその女達が松田のことを?


思わず顔を顰めた私を見て、香織は言葉を続けた。



「萩原くんってさ、多分どう頑張っても本命にはなれなさそうじゃん?遊ぶ相手は多くても、今のとこ彼女作る気なさそうだし。その点、松田くんって変にそういうとこ擦れてなさそうだしよく見えてくるんだよ」
「・・・・・・、」
「しかもそれなりに整った顔してんじゃん、あの2人。まぁ2人並んでたら目立つよね」
「・・・・・・それなりじゃなくて、松田は誰よりカッコいいから」
「ははっ、なまえが男のこと褒めるとかレアすぎ。まぁでも中にはガチっぽいのもいるから気をつけなね」



萩原ほどじゃないけど、昔から松田のことを好きだっていう女は一定数いたんだ。


そりゃそうだ。だってカッコいいし優しいもん。


香織の言う通り、萩原といつも一緒だったから目立っていたのも事実だ。


昔は松田に近付こうとする子に圧をかけて、徹底的に排除していたけどさすがに今はそういうわけにもいかない。



諦めたわけじゃない。
ただどうしていいか分からない。


昔みたいに、好きだと自分の気持ちをそのまま伝えられたら楽なのに。


いつの間にか始まった授業を聞きながら、そんなことを考えずにはいられなかった。







大学の授業が終わり、駅前にとあるカフェ。

同じく授業終わりのヒロから連絡を貰った私は、彼に会うためそのカフェへとやって来た。


テラス席に座る彼の隣には当たり前のようにあの金髪の姿。


・・・この2人、ホントいつも一緒にいるな。


昨日のことを心配して連絡をくれたヒロは、やっぱり優しい。下心なしに向けられる優しさは新鮮で居心地が良くて、つい甘えたくなる。


今朝の出来事を話すと、ヒロは申し訳なさそうに眉を下げた。



「そっか、そんなことがあったんだ。変に勘違いさせちゃって申し訳なかったかな」
「景は悪くないだろ。勝手に早とちりするその男が軽率なだけだ」
「ちょっと、松田のこと悪く言わないでよ!」
「事実を言っただけだ。キャンキャン騒ぐなよ、うるさい」
「はぁ?てか私はヒロに会いに来たのになんでアンタがいるの?」
「まぁまぁ2人とも落ち着いて。なまえ、パンケーキ食べる?ここのやつ、美味しいみたいだよ」
「食べる!」
「・・・・・・ガキ、」


メニューを見せてくれたヒロ。なんか隣からイラッとする声がした気がするけど無視だ、無視。


イチゴの乗ったパンケーキを頼んでもらい、少しだけ機嫌が直った私を見てヒロは小さく笑った。



「でもその子もなまえのこと、気になってるんじゃないのかな?」
「・・・・・・?」
「どうでもいいって思ってたら、他の男といても何も言わないと思うけど」



あぁ、そういうことか。

ふっと嘲笑的な笑みが自然とこぼれた。



「松田は・・・・・・、私のこと嫌いだから。癇に障るんだと思うよ、ただそれだけ」
「なまえ・・・・・」
「高校の頃は、普通≠フ距離にはなれたと思ったんだけどなぁ。今はそれですらないから」


自分の言葉がぐさりと胸に突き刺さり、ちくちくと傷を抉るように痛む。


出会ってから今日までに嫌い≠ニ何度言われたか分からない。


お前だけは好きにならない。


何回そう言われても、絶対諦めないって思ってた。諦めたくない気持ちに変わりはないけど、昔みたいにがむしゃらに突っ走ることはできなくて。



ふと頭に感じた温もり。


ヒロが私の頭をそっと撫でる。



「大丈夫だよ。いつかちゃんと彼も分かってくれる」


荒んだ心を癒してくれる笑顔と言葉。


そうだ、弱気になってちゃダメだ。


久しぶりに今日は松田と話せたんだから。うん、その事実だけで幸せだ。


まるで自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。



「よし!そうと決まれば、松田に群がるあの女達をどうにかしなきゃ!たいして可愛くないのに松田に近付こうとするとか無理!」



少しだけ、昔の調子を取り戻した気がする。



好きな気持ちは、どうやったって消えてくれないんだもん。



「・・・・・・まずはその性格をなんとかすべきだろ」
「はぁ?事実じゃん。その女達より私の方が可愛いもん」
「見た目がいくら良くても、さっきの発言で台無しだ」



バチバチと火花を散らす私と金髪。そんな私達の会話を遮ったのは、もちろんヒロで。



「零、女の子にそんな言い方するなよ。なまえも他の女の子落とさなくても可愛いんだからそんな風に言っちゃダメだよ?」


彼の言葉に、うっ、と押し黙った私達。


他の奴に言われたのなら多分言い返していたと思うけど、不思議とヒロにそんな気は起きなかった。



多分その穏やかな空気感と、柔らかい物言いのおかげだろう。彼の傍にいると何故か安心感に包まれるようなこの感じ。



「・・・・・・お兄ちゃんみたい」
「ん?」
「なんかヒロってお兄ちゃんみたい。私ひとりっ子だから分かんないけど、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなって思った」
「ははっ、なまえみたいな可愛い妹がいたら毎日楽しいだろうね」



ヒロの言う可愛い≠ノは、嫌味な響きはなくて胸の奥が擽ったい。


私に向けられる可愛い≠ノは、いつも後ろにでも≠ェつくから。



松田以外の人間にどう思われても気にならなかった。でもこうして真っ直ぐに褒められるのは悪い気はしなくて。


運ばれてきたイチゴのパンケーキは、いつもより甘くて幸せな味がした。

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