1/1






気まぐれで城周辺の森を散歩していると、目に涙を浮かべながら地べたに座り込んでいる若い女の姿が見えた。
そのあどけなさが残る容姿からして恐らく10代後半くらいの人間だろうか。
普段ならすぐにでも殺していたかもしれないがその日機嫌が良かった僕はその子に歩み寄った。



「やぁやぁ。キミ、こんな所で何をしているんだい?」



取り繕った笑顔で気さくに声をかけると涙で潤んだネイビーブルーの瞳と目が合う。
僕の姿を見た少女は堰を切ったように溜め込んだ雫をポロポロと零しながら縋るように僕のスーツの裾を掴んだ。



「あ、…あの、…ひぐっ…み、道に迷っちゃって…私っ…ぐすっ。」
「よしよし。落ち着いて。そんなに泣いたら可愛い顔が台なしだよ。」



僕は少女の隣にしゃがみ込み落ち着くようにと背中を摩ってあげた。
すると徐々に落ち着きを取り戻したのか彼女はスーツを握っていた手をゆっくりと離した。
あーあ…シワになっちゃった。



「落ち着いた?」
「はい。…あの、ありがとうございます。えっと、お名前…。」
「あ、僕の?そうだなぁ…名乗る程のものじゃないけど………"ジオ"…とでも言っておこうか。」



本名を明かすと色々厄介な事もあるかもしれないからとりあえず偽名を名乗っておこう。
一応この辺りではバンパイア、ロード・ジオットの名はそれなりに通っているはずだし。



「ジオさん?」
「うん、キミは?」
「私はヒナ……です。」
「ふーん、ヒナちゃんね。でさ、ヒナちゃんはこの森に何をしに来たの?」
「あ、あの…これを採りに…。」



そう言って彼女がポケットから取り出したのは手の平に乗る程のわずかな薬草。
確かこの辺でしか取れないちょっとレアな種類だっけ?
これを取りに、この森へと足を運んだ人間を何十人と殺したもんだ。



「これは薬草だね。」
「はい。大切な人が具合を悪くしてしまって…この草が一番効果があるって聞いたから……勝手に採っちゃダメでしたかね?」



うーん、おかしいなぁ…それだけの為にたった一人でここに踏み込んで来たと言うのか?
いくら薬草が必要だからと言って一般人の、それもこんな幼い女の子が武器一つでバンパイアが沢山生息するこの森に入ってくるとは考えにくい。
それにこの森の入口には民間人が誤って立ち入らないよう警備の人間もいたはず。
…もしかしてこの娘……。



「あ…いけない、大切な物を……。」
「(おや…これは…。)」



僕の予想がある一点にたどり着いたその時ヒナは薬草を取り出した時に一緒に落ちたであろうある物を拾い上げ、僕の推測が一瞬で確信へと繋がった。
彼女はすぐにポケットへ戻したが僕は確かに見た。
今のは魔狩人の証明印。
魔狩人というのは意外だったがやはり魔物ハンターでしたか。
そうなると……タダで帰す訳にはいかないね。



「着いてきなさい。森の出口まで案内してあげるよ。」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ…。さぁ、道は険しいから僕の手を握って。逸れないように…ね。」



僕が笑顔で手を差し延べるとヒナは、はにかみながら遠慮がちに僕の手を握った。
本当に素直でイイ子だ。
いや、騙されやすいと言うべきか…。
これで本当に魔狩人なのか?
彼女の手はとても白く小さく柔らかくて、無力の象徴とでも言うべきだった。



「あの…ジオさん?何か…どんどん森の奥に来ているような気が…。」



手を繋いだまま暫く歩いて行くと、後ろから不安そうなヒナの声が聞こえた。
少し不信感を抱き初めているのか最初と比べると僕に着いて歩くその足取りはどこか重くなっているように感じる。
ま、どうせもう逃げられないし本当の事明かしちゃおうか。
楽しみだなぁ…彼女、どんな顔するだろう。



「もう気が付いちゃった?でも城までもう少しだから大人しくしててね。」
「城……?」
「ええ…。この僕……バンパイアロード・ジオットの…ね?」
「っ!!」



バンパイアと明かした瞬間彼女の顔は一瞬で強張り僕の手を振りほどいた。



「おっと、逃がさないよ。」
「嫌っ!離してっ!」



すかさず僕がヒナの手首を掴むと、彼女は僕を拒みながら反対の手で腰に差した短剣の柄を握った。



「どうやら状況を理解出来ていないようだね。ここは僕の庭だ。仲間ならいくらでもいる。キミはオオカミの巣に迷い込んだ一匹の羊なんだよ。」
「……っ。私をどうするつもり?」



ヒナは悔しそうに歯を食いしばると震える声で僕に問い掛けた。
いいね。その怯えながらも強がる表情…もっと絶望へ突き堕としたくなる。



「バンパイアにしても良いけど暫くは魅了して僕の奴隷にしてあげる。」
「そんな…っ……ヤダっ……フランシス様…。」
「フランシス?ふーん。それがキミの大切な人だね。妬けちゃうなぁ〜……そいつ、殺しちゃおうか。」
「や…やめてっ!それだけはっ!」
「大丈夫。殺すのは僕じゃなくてキミだから…。」



どういう意味…?と顔を上げたヒナの視線と僕の視線が交わる。
すると彼女の澄んだ瞳から一瞬で光が消え去りバランスを崩した身体が僕の胸に倒れ込んだ。
それじゃ僕の手に落ちたか最終確認といこうか。



「ヒナ。キミが最も慕うべき人は誰だい?」
「はい。…ジオット様…ただ一人です。」
「合格。ご褒美だ。」
「んっ………はっ、…ジオットさ、まぁ、」



そう言って唇を奪い舌を捩込むと、たどたどしいが自分から積極的に舌を絡ませようとしてくるヒナに更に愛着が沸き唇を離して抱き寄せた。



「この子は僕の玩具だ。勝手にバンパイアやゾンビにしたりした奴は……ね。頭のイイみんななら皆まで言わなくてもわかるよね?」


辺りの茂みに隠れ僕らの様子を見ていた僕の下部達にそう告げると、ヒナの手を取って歩き出した。



「さ、ヒナ…帰ろうか…僕らの城へ。」




end...



ジオ…とでも→ジオ、とでも→ジオっとでも→ジオット
殆ど本名明かしてるジオットさん。
証明印ってどんなんだろ…紙のイメージだけど。





*


[ 3/8 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -