天文世界 37

 ヒックスの意志を見てゾラックも彼を戦士の一人と認め、彼らはネクロードの居城に乗り込んだ。
 外観とそろいの内装で立てられた城はトラン湖の岩城と同じぐらいの高さがあり、侵入者の行く手を阻む仕掛けがいくつも施されていた。それらの仕掛けをカスミが解除する傍ら、ロゼッタが襲い掛かってくるモンスターを薙ぎ払う。

「汝を神の御許に導かん、『ヘブンレイ』!」

 頭上から降り注ぐ光の柱はゾンビに限らず、幽霊や悪魔の類にも本領発揮するようで、触れた傍からモンスターは塵となって消えていく。
 そうしてたどり着いた最上階で、ウェディングドレス姿のテンガアールを傍にネクロードは優雅にパイプオルガンを奏でていた。壁一面を彩るステンドグラスは夕日を透かし、状況が状況でなければ見惚れるほど美しい光景だ。

「おやおや、ずいぶん遅かったですね。待ちくたびれましたよ。」

 ネクロードはオルガンを弾いていた手を止めて振り返る。

「テンガアール、今助けるよ!」
「ヒックス、来てくれたんだ……。嬉しいよ。」
「ちょっと待ってください、それでは私が負けるみたいじゃないですか。」
「その通りだぜ、ネクロード。貴様はここで負けるんだ。」

 ヒックスのテンガアールのやり取りにネクロードは不愉快そうに顔を歪める。そんな彼にかえすのは星辰剣を構えるビクトールだ。

「ネクロード!貴様、ノースウィンドゥという村を覚えているな!」
「さあて、どの村のことでしょう。私も長く生きているのでいちいち覚えていませんよ。ああ、しかし昔貴方によく似た男に会ったことがありましたね。さて、なんという村だったか……。」

 それでもノースウィンドゥなんて村知らないとのたまうネクロードに、ビクトールは眉を吊り上げる。

「その減らず口を二度と叩けなくしてやる。いくぞ、星辰剣。」
『こんな吸血鬼の一匹や二匹、私の敵ではない。』
「我が剣、テンガアールにかけて。ネクロード!お前を倒してやる!」

 ビクトールの隣でヒックスも大切な人の名前をつけた剣を構える。

「これはこれは、勇ましいことで。ティル、貴方の右手の紋章、ウィンディ様に献上させていただきますよ。」

 真の紋章同士の戦いが今ここに始まった。



 ネクロードを護っていたのは真の月の紋章であり、真の夜の紋章である星辰剣によってその結界は破壊される。ビクトールに限らずこちら側の攻撃がネクロードに命中するようになったのだ。
 しかしただやられるわけにはいかないと抵抗するネクロードの紋章術をロゼッタの魔術で相殺する。

「く、本当に忌々しい……!」
「最高の誉め言葉をありがとう!でもちょーっと注意力が足りないんじゃない?」

 睨みつけるネクロードにロゼッタはその清楚な容貌に見合わぬ凶悪な笑みを浮かべる。

「がら空きだ……!」

 その瞬間ヒックスがネクロードの背後から渾身の一撃を喰らわせ、ネクロードは耐え切れず膝をつく。

「おのれえ、私は500年もの間生きてきたのだぞ。それをこんなところで……。」
「500年の間、ずっと悪逆非道をしてきたんだろう。俺の旅は家族と、仲間を殺したお前に復讐するためのものだった。それもようやく終わる、覚悟しな!」

 ビクトールの振りかざした星辰剣がネクロードに突き刺さる。
 ネクロードの体は雷電に包まれ、断末魔とともに塵となって消え去った。ようやく彼は因縁の敵にとどめを刺すことができたのである。

「ヒックス、ありがとう!助けに来てくれて本当に嬉しかったよ。」
「テンガアールが無事で本当によかった!ネクロードを倒したのはビクトールさんだけどね……。」

 相変わらず謙虚がすぎるヒックスにテンガアールは仕方ない人だと肩をすくめる。

「誰がとどめを刺したかなんてどうでもいいんだよ。それに僕にとっては君がヒーローなんだからね。」
「そうそう、お前がネクロードをひるませたおかげで俺もとどめを刺せたんだからな。」
「うわぁ!?」

 ちったあ胸を張れとビクトールに背中を叩かれたヒックスは一瞬よろめく。先ほどはかっこよく立ち向かったのにどこか締まらない。まだ短い付き合いだが、彼らしいといえば彼らしいのだろう。

「ところでヒックス、その剣の名前……。」
「あ、いや、これは……。ご、ごめん、勝手に君の名前を……。」
「本当よ、勝手に人の名前を使って。」
「ご、ごめん。」
「なんで謝るんだよ。」
「え?」

 そんな2人のやり取りを見て、クレオはこの先大変そうだと笑う。それはそれで微笑ましいものがある。
 ともかくネクロードを倒したなら、あとはここから地上に降りるだけだ。戦士の村の人たちも下で待っていることだろう。

吸血城の決戦
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