Patriot 閑話

 王族に生まれたからと言って才にあふれた人間とは限らない。少なくともチャゴスはそうだった。
 父と違って短い手足と団子鼻がコンプレックスの彼は学問も武術も苦手で、特技と言えるものは何もない少年だった。そんな彼が家庭教師にため息をつかれたのは一度や二度だけでなく、その度にチャゴスのプライドは傷ついた。次第にチャゴスはなかなか実にならない努力が苦痛になっていく。
 そんな日々を過ごしていたあるときのことだ。一人の少年が一通の手紙を抱えてサザンビーク王城を訪れた。それがヨシュアである。
 クラビウス王の厚意によって住み込みで働くことになったヨシュアは、兵士訓練でめきめきと頭角を現していった。平民育ちと思えぬ理解能力に、サザンビークに辿り着くまでに身に着けたであろう高い運動能力。チャゴスから見てもヨシュアの弓術は美しいものであった。やさぐれていた彼もヨシュアのようになるために頑張ろうと思えたぐらいに。
 しかしその尊敬の念も条件が変われば、あっさりと色を変えてしまう。

「チャゴス王子も、従兄のヨシュア殿みたいに優秀であればよかったんですけどねえ。」

 家庭教師の言葉の意味をチャゴスはすぐに理解できなかった。
 王族でありながら平民として育ったヨシュアと、王族として次期国王となるため育てられたチャゴス。平民ながら文武両道のヨシュアと、これといって秀でたものがないチャゴス。この二つがチャゴスのヨシュアに対する憧憬を嫌悪に変えてしまった。
 チャゴスは努力することが馬鹿らしくなった。何故王子だからといって自分が惨めな思いをしなければならない。何故劣った自分が王子の責務を負わなければならない。どうしてぽっと出のヨシュアがちやほやされるのだ。
 理不尽な現実から逃げるようにチャゴスはカジノにのめりこむ様になる。この事態に流石のクラビウスも眉を潜め、新しい家庭教師をやとったが、改善する様子もない。ならば年の近いヨシュアが模範になればいいだろうと、チャゴスの護衛兼目付役に命じた。
 しかし当然それは逆効果であった。

「誰がお前みたいな卑しい人間の言葉なんか聞くものか。」

 既にチャゴスの心はこじれにこじれていたのである。

憎悪と憧憬
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