Patriot 34

 愚かさもここまで至ればあっぱれなり。
 ヨシュアとエイト達がいないうちに、両手で抱えるほどの大きさのアルゴンハートを闇商人から買い取ったのだ。偽物ではないものの、当然それは盗品だ。

「よしよし、これをヨシュアがいないうちに……。」
「私がいないうちに、なんですか。」

 しかしそれをヨシュアも見逃すはずもない。エイト達より少し遅れて合流した彼は今まで見たことがない怒った表情で詰め寄り、チャゴスの顔は真っ青に染まる。

「ただでさえ貴方は周囲をだましているのに、その上彼らを裏切り必要もない嘘を重ねるおつもりか!」

 だがその叱責を素直に聞いていられるようなら、チャゴスもここまで落ちつぶれているはずもない。コンプレックスをこじらせるにこじらせた王子は、とうとう開き直って怒りはじめる。

「うるさいうるさい!お前のことはずっと前から気に入らなかったんだ!父上に気に入られているからって、次期王の僕に指図しやがって!ぼくが王になった暁にはお前なんか牢屋にぶち込んでやる!」

 それでもヨシュアは動じない。これぐらいで臆するぐらいなら何年も教育係を務められるはずもないのだ。それがますますチャゴスを刺激する。

「何か言えよ、この穢れた王族が!」

 バザーの中心から外れた場所とはいえ、しんっとその場が静まり返った。どういうことなのだとヨシュアにエイト達の視線が集まり、チャゴスも余計なことを口滑らせたと気が付く。

「貴方のためにもそのことは口外するべきではないと、再三申し上げたはずです。」

 冷え切ったヨシュアの声にチャゴスは思わず肩を震わせるが、それでも彼は改めるつもりはないらしい。

「ふ、ふん……!どうせこいつらに聞かれてもこの国から出ていくんだ。ぼくは先に父上に報告してくるからな!」

 チャゴスは買い取ったアルゴンハートを抱きかかえ城へ走っていく。いつのまにか闇商人も姿を消しており、ヨシュアとエイト達はその場に取り残される。

「……ヨシュアさん、今の言葉はいったい。」
「後でお話しします。それよりも今のことを早く王に報告しなければ。」

 ハイネの問いにヨシュアは首を横にふり、エイトから本来のアルゴンハートを受け取って主君のもとへ急いだ。






 ヨシュアの報告によりクラビウス王もアルゴンハートの真実を知っていたが、表向きは王者の儀式は成功したことになった。彼が忘れたころにもっとも効果的な形で、父親がである彼が息子のチャゴスをしかりつけるために。
 結果はどうであれエイト達が儀式のために協力したのは本当だ。約束通り魔法の鏡はエイト達に譲られた。

「穢れた王族とは、どういう意味なんですか?」

 その後、宿屋でハイネはヨシュアにチャゴス王子の言葉の意味を問い詰めていた。デリケートな話題故に本来は追及するべきではないが、サザンビーク王家の問題はトロデーン王家に無関係とは言い切れない。ヨシュアとしても下手に勘繰られ誤解を招くのは避けため、意外にも素直に応じた。

「そのためにはまず私の両親のことから話さなければなりませんね。まずクラビウス王には昔、兄と姉がいたことを御存知でしょうか。」
「ええ。街の人からも聞いたことがあります。」

 その昔、サザンビークにはエルトリオとアドリアナという双子がいた。しかしアドリアナは若くして事故で亡くなり、エルトリオも地位を捨て失踪してしまう。

「まさかエルトリオの息子とでもいうんですか?」
「いいえ、私の父はただの傭兵ですよ。……アドリアナが私の母なんです。」

王家の秘密
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