Patriot 32
翌朝、エイト達はサザンビーク王城を訪れた。約束通りヨシュアはクラビウス王に話を通してくれたようである。謁見の間には彼も控えていた。
「ヨシュアから話は聞いている。だが魔法の鏡は王家の宝で、城から持ち出すことはできん。」
クラビウス王はエイトを見て驚いた顔をしたものの、すぐに冷静さを取り戻しそう返した。もっともな答えだが、何事にも例外というものがある。
「我が国には王者の儀式というものがある。しかしこの儀式を我が息子、チャゴスはひどく嫌がっていてな……。」
サザンビークの王族の通過儀礼でもあるそれは、並の戦士でも命を落としかけない危険なものだ。本来一人でこなすものであるが、肝心のチャゴスでは到底こなせるものではない。親としては城のものを護衛につかせたいが、それでは王家のメンツに支障がでる。そこで余所者である彼女達が秘密裏に護衛してくれるならば、魔法の鏡を譲ろうと言うのだ。
「ヨシュア。」 「はっ。」 「お前も彼女らとともにチャゴスの護衛を務めよ。チャゴスがこの者たちに無礼を働かぬは限らないからな。」
クラビウスはすっと前に出たヨシュアにそう命ずる。普通懸念するのはチャゴスに対する叛逆だろうと、ククールは小声でツッコミを入れるが、それだけチャゴスの人望がないということなのだろう。
トカゲは嫌だから舌を噛み切ってやると籠城するチャゴスをヨシュアが力づくで引きずり出した後、エイト達は王家の山を目指すことになった。そもそも死ぬのが嫌で引きこもっているような人間に自殺する勇気があるはずもない。魔法で動きを縛られながら回収されたチャゴスの顔は絶望したものだった。
「あれでも一国の王子なのに、あんな手荒な真似してよかったんげすかい?」
その時のことを思い出しながらヤンガスが指摘すると、ヨシュアはいつものことだからと肩をすくめる。実際周囲も呆れつつも、見慣れた様子でヨシュアを止めはしなかった。
「私は王子の護衛を務めることが多いのですが、同時に彼の目付役も兼ねているんです。」
しかし当の王子といえばすぐに城を脱走し、勉強も訓練もせずベルガラックのカジノで遊びほうける始末。その度にヨシュア含める城の兵士が連れ戻しに走るので、王も多少のことなら目をつむっているのだ。さっきだってヨシュアは主君に魔法をかけたものの、動きを封じるだけで傷一つつけていない。チャゴスにとってヨシュアはまさに天敵のような存在だった。
「正直いくら危険であろうとこのような特例を認めるのは反対なのですが、彼に死なれても困るのが現実です。」
現在クラビウス王の跡を継げる出自の人間はチャゴスしかいない。王族の血が途絶えるのは国家滅亡の危機につながりかねない。ゆえにクラビウス王もチャゴスの儀式に躍起になっている。
「あなた方には多大な迷惑をおかけしますでしょうが、どうか最後までお付き合いください。」
ともかく今回の儀式も表向きはチャゴス一人でこなすことになっている。国民に盛大に見送られるチャゴスから少し遅れて、ヨシュア含む一行は町の外に出た。
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