Patriot 閑話
確かに昔はエイトもハイネを純粋に姉と慕っていたのだ。いきなり姉だと差し出されたその手に驚きもしたけれど、とても頼もしく思えたのは今でも覚えている。 その感情が色を変え始めたのはいつだったか。姫の推薦で近衛兵になったころだと思う。姉が見知らぬ男と親しげに話しているのを見ると心がざわついたのだ。 しかしこんなこと姉にはもちろん、身内に相談することなどできなかった。だからこそその当時よくお世話になった先輩にぽろりとこぼしてしまったのである。
「お前、そりゃ……。」 「先輩にはこれが何なのか分かるんですか。」 「分かるも何も、なあ。」
鳩が豆鉄砲くらったような顔をした先輩にエイトが尋ねると、先輩は歯切れ悪く言う。
「その答えはお前自身が見つけるものだし、答えがでるまで無暗に人に話すもんじゃないぞ。」
分かったかと念を押す先輩にエイトは訳もわからず頷いた。
それから数年経った今、旅をしてエイトはどうして先輩そんな注意したのか、ようやく理解ができたのだ。思春期が幼馴染に恋するように、エイトもハイネに恋をしたのである。 ドールマスターの愛の物語に混乱したのではない。そうであれたらと思った自分にエイトはひどく動揺したのだ。血のつながりがないとはいえ、姉に恋をしたなど社会的に堂々と言えるものではない。
「姉さん。」 「あら、エイト。どうかしたの?」
もしエイトが今更ハイネを名前で呼んだとしたら、彼女はどんな反応をするのだろう。驚いた顔をするのだろうか、困った顔をするのだろうか。それとも彼女のことだから気づかないふりをするのだろうか。
「錬金について相談したくて。」 「ああ、そうね!私もそろそろ荷物の整理をした方がいいと思っていたの。」
それを確かめる勇気はまだないけれど。
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