Patriot 26
ヤンガスの言っていた情報屋は、パルミドを拠点にしているという割に清潔感のある男であった。彼によるとドルマゲスは西の大陸に渡ったそうだが、魔物の凶暴化により定期船が止まっている。あとを追いかけるにはこちらも船も必要だが、当然そんな贅沢なもの個人で持っているはずもない。 そこで情報屋が教えてくれたのは。ポルトリンク外れにあるという古代船だった。長い時を経ても老朽化せず佇むそれは、知識のないものが乗っても大海原の何処へでも行けるらしい。
「そういえば、私もその船を見たことがあるかもしれないわ。」 「何、まことか!?」
ふと思い出したようにハイネがこぼすとトロデ王が食いつく。 彼女は死者として城の外に出ることが何度かあり、間近でみたことはないものの、立派な船があったことは記憶している。確かあのあたりではちょっとした名物になっていたはずだ。
「しかしあれは砂丘の真ん中にありますし、どうやって海にでるのか……。」 「ううむ。それを調べるためにもまず、その古代船とやらを実際に見に行く必要がありそうじゃの。」
古代船があるという、ポルトリンク北西の道の封鎖は最近解かれたという。一行は北の大陸へ一旦戻ることにした。
砂上に佇むその船は確かに今でも動き出しそうなぐらい立派なものだった。しかし水のないこの場所ではどこにも行けず、海に押し出そうにも大きすぎてびくともしない。 それならばここから更に北にあるトロデーン城に行こうと提案したのはトロデ王だった。もしかしたら王室縁の図書館に古代船に関する資料があるかもしれない。 とはいえ砂丘からトロデーン城までもそこそこの距離がある。エイト達は西の教会で一晩休むことにした。 旅人向けに建てられたその教会は一面の海を眺められる岬にある。かつてはそれを目当てにやってくるマニアもいたが、トロデーン城が呪われてからはすっかり一足が途絶えたらしい。シスターは遠くに臨む茨の城に不安げにため息をついていた。
「トロデーン城に戻るのは随分と久しぶりですね。」
ハイネもまた、ミーティアと共に城を見つめながらそうこぼした。姫も頷くように小さく鳴く。
「本当は呪いが解けたときに帰るのが一番だったんですけど。」
だが姫は相変わらず馬の姿のままで、城を覆う紫の雲は晴れないままだ。ドルマゲスを倒したところで、本当にこの呪いが解けるか少しだけ不安になる。 それが顔に出ていたのだろう。姫がぴとりとハイネに寄り添った。
「ふふ、心配かけたかしら。私はもちろん、きっと姫も大丈夫です。ですから呪いが解けた暁にはお願いしたいことがあるんです。」
何をお願いしたいのかと、姫がハイネを見上げる。お願いは本当に些細なものだ。
「また、姫の歌声を聞かせてください。あの歌を聞くためならもっと頑張ろうって思えますから。」
夜が深まり、いずれ朝日が昇る。
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