Patriot 14
一触即発の状況に即座に動いたのはヤンガスだった。その後ろ姿をハイネ達も慌てて追いかける。他人事とはいえこんなところで喧嘩されてはかなわない。
「まあまあ、あんたもそんなに怒んなよ。負けて悔しいのはわかるけどよ。」 「なんだとお!?」
ヤンガスがなだめようとするが逆効果なようで、男はますます声をあらげる。対する銀髪の青年は優雅にワインを飲んでおり、こちらはこちらで煽るようなことをしないでほしい。
「そうか、わかったぞ!てめえら、こいつの仲間だな!」 「ヤンガス!」
おかげでとんでもない勘違いされ殴り飛ばされたヤンガスに、エイトが駆け寄る。ヤンガスに大きな怪我はなかったようだが、さすがに我慢ならなかったらしい。
「兄貴、あっしは大丈夫やす。それよりもいい加減しやがれ!妙な言いがかりをつけるとただじゃおかねえ」 ばしゃっ
今度はヤンガスと荒くれが諍いはじめたときだった。ゼシカが二人にバケツで水をぶっかけたのである。しかしそれで頭が冷えるわけもなく、現場はどんどんエスカレートする始末。荒くれの子分二人がゼシカに絡み、その二人をヤンガスがとっちめ、さらに荒くれがそのことに激怒。周囲もそれを囃し立て止まるどころか悪化する状況に、エイトはおろおろと見ることしかできない。ハイネにいたっては目が死んでいた。
「……姉さん。」 「もうこうなったら止められないわよ。」
弁償代を考えると気が遠くなるハイネやエイトをその場から連れ出したのは、意外にも事の発端である青年だった。それに気が付いたゼシカも追いかける。
「あんたらのおかげでイカサマがバレずに済んだよ。どこの誰だか知らないが助かったよ、美しいお嬢さん。」 「あら、お上手ね。でも私自身は何もしてないし、イカサマとは感心しないわ。」 「はは、あんまりいいカモだったからな。」
青年はハイネの手を掴んだまま、いけいけしゃあしゃあと宣う。荒くれが言ったことは間違いではなかったのだ。それに対しハイネはあくまで穏やかな笑顔を浮かべながら対応する。この手の人種には怒ったら負けだ。
「おっと。」
しかしこの状況に我慢ならなかったのは意外にもエイトの方だった。
「へえ、なるほどね。さしずめあんたがお嬢さんの騎士様っていったところか。」
無言で引き剥がすエイトに流石のハイネも少し驚いて目を丸くするが、青年は余裕そうに笑う。睨み付けられることすら愉快そうだ。
「……オレの名前はククール。助けてくれたお礼と出会えた記念に、これを。」 「はあ!?こんなものいらないわよ!」 「返したければマイエラ修道院にきてくれ。俺はそこで住んでいる。」
唐突に指輪を渡されたゼシカは不愉快そうに叫ぶが、ククールはどこ吹く風でその場を去っていた。
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