Patriot 15

 ククールがゼシカに半ば無理やり渡したのはマイエラ修道院の印が刻まれた指輪だった。ゼシカ本人はすぐにでも叩き返したいだが、今日はもう遅い。彼が住んでいるというマイエラ修道院に行っても入らせてくれないだろう。

「姉さんはああいうのが好きなわけ?」
「あんな軽薄男、絶対やめたほうがいいわ!」
「随分嫌ってるのね、貴方達……。」

 ジト目を向けるエイトと吐き捨てるように言うゼシカにハイネは苦笑する。ハイネとしてもククールのような人間とは積極的に関わろうと思わないが、二人ほどではない。

「まともに取り合うだけ無駄だと思っただけよ。実際ゼシカが怒ってものらりくらりと躱されたでしょう?」

 ハイネがそう指摘すればゼシカは言葉を詰まらせる。社交辞令を真に受けるのも、腹を立てるのもナンセンスだ。

「ついでにドルマゲスの情報も探れればよかったのだけど、酒場もこの有様だわ。今日はもう休みましょうか。」

 ハイネは小さくため息をこぼしながらそう言った。





 翌日修道院を訪れ指輪を返しにきたこと伝えると、門番は頭を抱えながら修道士宿舎へ通してくれた。どうやらククールは聖堂騎士団でもとりわけ問題児のようで、酒代のツケにと指輪を渡すことが多いそうだ。そういえばマルチェロも内部の問題も多いとぼやいていた気がする。たしかにこのような部下ばかりではまとめ役である彼も苦労が多いだろう。
 さてその問題児ことククールはどうやらマルチェロと取り込み中のようで、指輪を返すのはもう少し後になりそうだ。その一方エイト達にとって興味深い情報が入る。

「妙に長い杖を持った道化師が今しがた、修道院長の部屋へと向かったぞ。オディロ院長はああいうのが好きだからな。」

 聖堂騎士から得た情報にエイト達は顔を見合わせる。おそらくドルマゲスことだろう。この際指輪のことはどうでもいい、一行も修道院長の部屋に向かった。しかし当然ながら聖堂騎士によって阻まれる。
 どうしたものかと話し合っているときだった。

「あんた達、どうしてこんなところに。」

 マルチェロとの話がようやく終わったらしいククールに呼び止められた。それにゼシカは再び眉を吊りあげる。

「あんたが来いっていったからでしょ!こんな指輪いらないわよ!」
「指輪?……そうだ!あんたらに頼みたいことがあるんだ。」
「はあ!?冗談でしょ?」

 図々しいと悪態つけるゼシカにククールは時間がないのだと必死に頼み込む。どうやらククールは修道院に異様な気配が忍び込んだのに勘づいたらしく、その正体が院長に会いに行った道化師のものではないかと推測したのだ。

「そいつの狙いは分からないが、このままではオディロ院長の身が危ない!」
「ククール、君が見に行くことはできないのかい?」
「そうしたいのはやまやまだが、院長がいる島へ続く橋を塞いでいるは石頭の馬鹿どもは俺も通さないんだ。」

 エイトの問いにククールは悔しそうな顔をする。とても嘘をついているようには見えない。

「院長の部屋がある島へ続く道はもう一つある。だが俺は重要な任務でここを離れられないんだ。頼む、修道院長の部屋で何が起きているのか見に来てくれ!」

 ドルマゲスをなんとしても捕まえたのはエイト達もだ。エイト達はククールのお願いに力強くうなずいた。

修道院に寄る陰
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