光陰世界 03

 レイナがこの世界に紛れ込み半年ぐらいだが、イレブンが勇者の生まれ変わりと聞いてもいまいちピンとこない話であった。彼女からしてみれば口数の少ないただのお人よしである。当人も勇者としての自覚は薄いのだからもっともな感想だ。
 ましてやデルカタール王に悪魔の子だとののしられ、地下牢に放り込まれるなど思いもしなかったのだ。彼に同行していたレイナも共犯者を見なされ、イレブンと同じく連行されてしまう。

「グレイグだっけ、今晩はチーズ料理でお願いね。」
「貴様、自分がどのような状況になっているのか自覚がないのか?」

 もっともレイナは特に気にした様子もなく、場違いなお願いをする。不安が入り混じった顔をしているイレブンより、彼女の方が勇者らしい。心臓に毛が生えている的な意味で。

「そんなこと知ったこっちゃないってば。悪魔の子だって言われても、このいたけな少年一人が世界を変えられると思えないっしょ。」
「……無知な人間もいたものだな。」

 呆れと軽蔑の混じった声をはなつグレイグだが、レイナとしてはこの世界の人間の方が狂ってるように思えた。イシの村は皆イレブンが世界を救う勇者だと信じていたし、かと思いきやデルカタールでは世界を滅ぼす悪魔だと目の敵にされる。どちらにせよ伝説だとか予言だとかをこぞって信じるなど異様な光景だ。誰か疑問を呈してもおかしくなかろうに。




 なすすべもなく鉄牢に閉じ込められたイレブンとレイナを助けてくれたのは、同じく牢屋に放り込まれた盗賊のカミュだった。彼が掘った抜け道を通って地下水路に脱出した三人だが、そこにもデルカタール兵の姿はあった。カミュの指示に従い見張りの目を掻い潜ったり、レイナの持ち物にあった煙玉で追っ手をまいたりしながら、何とか脱出を計る。
 その先でイレブンたちを待ち構えていたのは人より何十倍も大きいドラゴンだった。どうして王都の地下にこんなものが住み着いているのだ。
 錬金術としては混じりけのない竜種は貴重な材料なのだが、それで死んでは元も子もない。興奮気味のレイナの手を掴み、イレブンはカミュと共にひたすら外を目指す。テンションがあがっているとはいえ、レイナも流石に状況は理解しており抵抗しなかった。
 ドラゴンの業火から命からがら逃げだし地下洞窟を抜け出したものの、その先に道はなくはるか下に青々とした森が広がっていた。おまけにどこからやってきたのか追っ手の兵士に囲まれ来た道を戻ることもできない。

「ここで捕まったら俺もお前たちも長くは生きられねえ。ここはひとつ、勇者の奇跡を信じてみようじゃねえか。」

 カミュの案に三人は崖を飛び降りた。

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