光陰世界 02

 イシの村では成人になると神の岩と呼ばれる山を登ることになっている。もともと村の住人ではなく既に誕生日が過ぎていたレイナには関係ない話だが、友人であるエマとイレブンの儀式の成功を彼女は楽しみにしていた。二人が成人になったからと言って何かあるわけではないけれど、特別な日というのはそれだけで価値がある。それだというのに山頂に雷光が走ったときは流石に不安になりもした。山の天気は変わりやすいとはいえ不穏な天気だ。
 もっともそんなレイナの不安は不要なものだったようで、エマとイレブンは晴れやかな笑顔で山を下りてきた。どうやら雨雲が晴れた絶景も眺められたらしく、世界の広さに感動したようである。
 しかしここでこの世界の物語は大きく動き始める。イレブンがかつてこの世界を救った勇者の生まれ変わりだと告げられたのだ。右手にある不思議な痣はその証であり、先ほどの雷は彼がエマを守るために無意識に呼びよせたものなのだ。
 そうして彼は亡き祖父の遺言に従い、デルカタール王に会いに行くこととなり、元から旅立つ予定があったレイナもしばらく彼に同行することにした。元の世界に帰る術を探すにも当てがないし、調べ方などさっぱりなのだ。ならば旅の目的地が明確である彼について行っても彼女としては何の問題もないし、むしろ仲間がいる方が互いに安心だ。
 イシの村からデルカタールまではそこそこの距離があり、決して強くはないが魔物の姿も多い。すれ違った商人曰く、ここ最近魔物が活発化しているそうだ。
 イレブンが片手剣で魔物を切り捨てていく隣で、レイナも斧を振り回し敵を仕留めていく。一見ただ荒っぽい攻撃のようで、素早く確実に敵の急所を狙っていく様は戦い慣れたものだ。半面相手の攻撃を受け止めるのは不得意なようで、呪文が一切使えない彼女は一度態勢を崩すと持ち直しにくい。そこをイレブンが上手くフォローしていく。火力のレイナと耐久のイレブン、バランスのいい二人組だ。
 そうは言っても度重なる戦闘は疲労がたまるもの。道中あったキャンプ地で二人は一度休むことにした。

「レイナって本当にチーズ好きだよね。飽きないの?」
「飽きないよ、チーズって一口に言っても色々あるんだから。」

 食後のデザートと言わんばかりにチーズを頬張るレイナにイレブンが尋ねると、彼女はむっとした顔で返す。彼女が手に取っているのは錬金術で作った特殊なものだ。

「それにチーズは美味しく元気になれる、だけじゃない。」

 彼女が作ったものは薬草同様体力を回復するだけでなく、種類によってさまざまな副次効果を得られる。例えば辛口チーズを食べれば熱に強くなるし、カチコチチーズを食べれば怪我を負いにくくなると言った具合だ。

「薬草より手間はかかるけど、ロトゼタシアではチーズの材料が商人から手に入りやすいからね。」

 旅をする上でアイテムの有効活用は重要だと語る彼女にイレブンは半分納得しながらも首をかしげる。

「それなら今チーズ食べるのはもったいないとおもうけど。」
「っ…。」

 エマ同様的確なツッコミにレイナはぐうの音も出なかった。

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