光陰世界 01

 どこかの世界の何処かの国。物質やエネルギーをマナという元素に分解し再構築する錬金術というものが発達していた。少女レイナもその技術を活用する一人であり、一人錬金術の材料を集めに山道を登っていた。背中には彼女には不釣り合いなぐらい大きな斧が背負われているが、彼女は顔色一つ変えずに軽やかな足取りをしている。
 しかしそこで思わぬ事故が起きてしまう。

「あ、やば。」

 偶然見つけた珍しい植物に手を伸ばすと、うっかり足を滑らせてしまったのだ。背負っていた斧は明後日に飛んで行き、宙に浮いた体は無抵抗に落下するしかない。せめてカバンだけは手放すまいと抱きしめ、レイナは慣れぬ浮遊感に気を失った。





 それが半年ぐらい前のこと。気を失ったレイナは川をどんぶらこどんぶらこと流れていき、近くで釣りをしていた村人に助けられた。
 レイナはせめてもののお礼に宿代だけでも払おうとしたが、ここでまた問題が起きてしまう。レイナの持つ通貨と村で使われている通貨は異なるものだったのだ。それどころか今いる場所はレイナが全く知らない世界の辺境だったのである。ロトゼタシアなど彼女は聞いたことがない。おまけに握りしめていたはずのカバンの中身はほとんど失っており、錬金ノートは水で滲んですっかり読めなくなっていた。
 途方に暮れるレイナに手を差し伸べたのはイシの村の住人たちだった。元の世界に帰る手段を探すにせよ、この世界で生きていくにせよ、今の彼女は十分な資金も知識もない。今後の方針をしっかり固めるまで道具屋で働かせてもらいつつ、イシの村でお世話になることになった。
 そうしてまずぶつかった壁が言語の違いである。話す分には問題ないのだが、レイナ使用する文字とロトゼタシアの文字は異なるのだ。生きていくうえで文字が読めないのは致命傷である。
 頭を抱えるレイナに丁寧に教えてくれたのは、エマという穏やかな気質の少女であった。彼女としても小さな村では珍しい同い年の女友達ができてうれしかったのだ。

「本当に旅立つつもりなの?」
「元の世界でも根無し草の旅人だったからね。」

 しかしそんな日々ももうすぐ終わる。レイナはイシの村を旅立つことを決めたのだ。道具屋のアルバイトでこつこつと貯めてきたお金も十分なものになってきた。

「やっぱり心配だなあ、レイナっておっちょこちょいだし。」
「おっちょこちょいとは失礼な。」
「昨日も階段から派手に転げ落ちてたでしょ」
「あれは新しい調合レシピについて考えたから……。」

 エマの鋭いツッコミにレイナは視線をそらし言い訳をする。彼女の足には大きな青あざができていた。

「私のことはいいとして、エマは明日が成人の儀でしょ?そっちのことを心配するべきだと思うけど。」
「うふふ、分かってるわよ。だからこうして道具屋に来たんだし。チーズと薬草セットをお願いしていいかな。」
「はいはーい、まいどありー!」

 道具屋の店番をしていたレイナはさっそく注文の品を詰め始めた。

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