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神田くんは近くのスーパーに行くだけでも「護衛」をしてくれる。周りから見れば私達は姉弟か何かだろう。現に八百屋に行けばおじさんが「お。お姉ちゃんと買い物かい!」と笑って神田くんの機嫌を見事に損ねさせた。まさか、おじさん、やめてくださいよ。私がこの神田くんのお姉様なんて恐れ多い。


「ナマエ、お前歳は。」

「は、え、私、ですか。」


敬語になってしまったのは神田くんがあきらかに不機嫌オーラを発して私の後ろを歩くからです。せめて前を歩いてくれれば嬉しいのだけれど、神田くんはなぜか私の後ろを歩く。護衛、だからかな。でも私、後ろに立たれるの好きじゃないんだよね。まぁ、神田くんってわかってるからいいんだけど、さ。


「私は、20でございますが。」

「そうか。」


それだけ聞くと神田くんは黙ってしまった。え、女の子に歳聞いといて「そうか」で済ませちゃいますか。少し反応らしい反応が見たかったのですが、それは神田くんに期待してはいけないのでしょうか。というか神田くんに期待という言葉を期待してはいけないよね、うん。まぁ、いいけど、さ。そう無理矢理突っ込みたい気持ちを押し込んで私達は買い物を終えた。今日は給料日だったのでちょっと奮発して色々買ってしまった。半分は神田くんが持ってくれた。筋トレだそうな。

小さくても軍人か。

こんな子供に鍛えさせて、戦争だなんて…。こんな子を戦場に駆り出す黒の教団ってとこは何のだろう。私は沈んでいく気持ちをそのままにステンレス製の集合ポストを開けた。中には服屋のダイレクトメールやら携帯の請求書。まぁいつもと変わらないハガキやら封筒やらの下、私は何かを見つけた。あれ、これはなんだろう。紙、よりも少し厚い感じの、これは…。


「写真…?」


表が見えないよう裏返しになっていた写真はどこか草臥れていて、真ん中からまっ二つに破れている。しかしそれをくっつけたようにセロハンテープがお世辞にも綺麗と言えない程度にべたべたと貼られていた。なんだろう、と手を伸ばした時、私はその破られている跡に見覚えを感じて急いで手を引っ込めた。

荷物の重い方を持ってくれた神田くんはそんな私を気にしていないのか、どこか遠くを見ていて、私は小さく安堵の息を吐いた。そのまま神田くんがこちらを見ていないのを確認してから私はその裏返しになっている写真をおそるおそる表に返した。返した瞬間、やっぱり、と目の裏がぐらぐらとした。写真だ。これは、彼と私の写真だ。いつか神田くんの目の前で破り捨てた、あの時の写真だ。どうして。なんで。確かに捨てたはず。なんで。なんで。


「…どうした。」


神田くんが黒々とした瞳をこちらに、私を見上げていた。


「…あ、」

「ナマエ?」


私はすぐさま笑って、写真をダイレクトメールの間に挟んで首を振った。


「ううん。なんでもない。」


腰の赤い線がチクリ、焼けるように痛んだ。



…はるちゃん。


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