09



「神田くんって友達いないでしょ。」

「一日家にいるかバイトしかない奴に言われたくねぇよ。」

「私は大学が休みだからいいのよ!」

「お前学生か。」


驚いた顔をされた。私は神田くんにとってどう見られていたのだろう。今日はバイトがなくていい天気だったので嫌がる神田くんを無理矢理引き摺ってツタヤでエクソシストを返してから公園に散歩に来ていた。公園には神田くんと同じくらいの男の子がキャッチボールをして遊んでいる。何とも楽しそうな光景だ。神田くんに「混ぜてもらえば?」と言えば彼はなんとも言えない、人をこれ程までにドン底に陥れるような馬鹿にしたような顔を私に向けて鼻で笑った。なんて奴だ、と思った。そして上記の会話になる。


「そもそも神田くんってさ、その、黒の教団ってとこで何してたの?」


昨日観ていたエクソシストは悪魔を払う神父さんだったけど、神田くんがあれをやっているというのはいまいちピンと来ないというかなんというか。信じられないっていうか、いや、信じようと思うけどその話とこの話は別っていうか、…神田くんみたいなキャラの子が悪魔を払うあの神父さんと結びつかない。と、あれこれ言葉に迷っている私に神田くんは原っぱに落ちていた手頃な太さの枝を拾ってこう言った。


「戦争。」

「…え?」

「戦争してた。聖戦って無理矢理こじつけた、ただの戦争。」

「…………。」


びっくりした。


目の前の男の子が、少し右に視線をずらせば楽しそうにボールを投げている男の子達と同じくらいの子から、戦争なんて言葉が出てきて。


「俺の言っているアクマは、お前の言ってる悪魔じゃない。アクマという名の、兵器だ。」

「兵器…?」

「黒の教団は、その戦争に勝つために作られた軍事機関。エクソシストは、その大量殺戮兵器、アクマを壊すためにある存在だ。」


俺等も兵器みたいなもんだ、と神田くんは言った。それから神田くんは落ちてきた木の葉を一枚、切り捨てた。神田くんが枝を振り切った瞬間なんて私には見えなくて、一瞬の風圧と、二つに切られた葉っぱが私の手のひらに落ちた。神田くんの話があれなら、神田くんは、軍人、なのだろうか。その年で?まだ子供なのに?…アクマというサツリクヘイキと戦っていたのだろうか。どうして、その必要があるのだろう。子供なのに。まだ子供なのに。
神田くんは、俺はエクソシストだからと言った。


「ここは、アクマも何もない。平和で、いい。」

「………、」

「だけど俺の居場所じゃない。俺は戦うために生まれたから。」


と言った神田くんの体を、私は強く抱きしめた。なんだか無性に泣きたくなった。そして、彼を帰したくないと思った。うちで彼を一生養える余裕なんてないクセに、でも、彼をまたその聖戦というものに参戦させるのなら、帰したくないと思った。どこかでキャッチボールをしていた男の子達の揶揄が飛んでいたけど、神田くんは私を突き放さなかった。黙って、抱きしめられていた。


戦争に聖戦も何もない。


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