05


「気持ち悪い…水…。」

「はいはい。」


定員一名の折りたたみ傘で帰った翌日、神田くんは熱を出して私のベットに寝込んでいた。寝込んでいても神田くんの上から目線は相変わらずのようで、昨日「だるい…」と言った神田くんに風邪薬を飲ませて朝起きたらこれだ。


「喉痛ェ…。」

「喉に指突っ込んであげよっか?」

「…卸すぞ。」


まぁ、物騒な少年だこと。吹き出る汗をタオルで拭けば弱々しく自分でできるとタオルを奪われ、大丈夫かなと見守っていると案の定、「だるい…、拭け。」と言われた。神田くん、結構俺様だよね。俺様って言われるでしょ。ていうかその性格で黒の教団、ちゃんと生きていけてる?いじめられてない?うーん、逆にいじめてそうで想像するのが怖いな。
懸賞で当たったコシヒカリでお粥を作った。辛そうな神田くんを起こしてレンゲで「はい」とやれば「うるせぇ、ガキじゃねぇんだよ」と顔をそらされた。はいはい。自分で食べられるんだよね、はいレンゲ。と神田くんにレンゲを渡して自分で食べさせようとしたらやっぱり一口だけで限界のようで、結局私が無理矢理食べさせた。
粥をいらねぇと言った神田くんに半分ほど無理矢理食べさせて、残りは私が食べた。健康な私が味気のない粥をぺろり、と食べ終えると神田くんがまだ辛そうにしてベットに寝た。うん。あともうちょっと寝た方がいいかもね。


「……おい…。」

「ん〜?」

「昨日…、」

「うん。」

「……やっぱなんでもない。」

「………。」


なんか、昨日私が出掛ける時もなんか言われたな。なんなんだ、まったく。神田くんは熱っぽそうに「はふ、」と息を出して寝返りを打った。さらり、と額に落ちた前髪から覗く顔は、よく見れば整った顔をしていて、あと5年もすればどごぞの俳優にも負けないような顔立ちをしていてた。その分、今の顔は本当に中性的で女の子みたい。掛け布団を首元まで持っていき、放り出された腕も仕舞う。熱に魘される神田くんはもう限界のようで無駄な抵抗もなくすんなり寝てくれた。

さて、私は食べ終わった粥の食器でも洗って買い物にでも行こうかな。まさか一人暮らしから二人になるなんて思わなかったし、しかも身元超不明だし、いつ彼が黒の教団ってとこに帰るかもわからないし、そもそもどうやって帰るのもわからないし、それなら必要なものが色々出てくるだろう。いくら神田くんが急に押しかけて私が被害者になろうが、20歳にもなった大人が子供をそのままにしておくのはいかんだろう。食器を洗い終わった私は部屋着から外に出てもおかしくないような格好した。すると準備の物音で目が覚めたのか神田くんが半身を少し起こした。


「…バイトか?」

「ううん、買い物。」


なにか欲しいものあれば買ってくるけど、と言った私の言葉に神田くんは少し考えるように黙ってから、のろのろとベットから見える出窓に目を向けて首を振った。


「駄目だ。」

「は?」

「出掛けるな、と言っている。」

「なんでよ。」

「…なんでもだ。」


睚の上がった目で言われた。熱っぽそうにしてても、彼の目付きの悪さは健在だ。一瞬、熱で人肌恋しくて行くなって言ってるのかな、と思ったけどそれは神田くんということですぐに打ち消した。この子に人肌恋しいという感情はない気がする。


「…そう言われても…。神田くん着替えとかいらないの?ずっと私の高校時代の体操着着てる?」


雨で自前の服が濡れてしまった神田くんに私は高校の時の体操着を着させてあげた。少し大きいけど、問題はないだろう。あ、体操着って言ってもブルマじゃないよ。ハーフパンツだよ。Tシャツもあったんだけど、女物のTシャツじゃ可愛そうだったからさ。

でも神田くんの服は今干してるし、一枚だけじゃあれでしょ?しかも下着とかさ、と続けると神田くんは薄く口を開いて目を二、三回瞬きさせた。


「…俺の買い物か?」

「そうだよ。黒の教団ってとこにいつ戻れるかわからないんなら、必要なものとか出てくるでしょ。」


気が付いたら私の部屋にいたという神田くん。気が付いたら黒の教団に戻ってるかもしれないけど、その「気が付いたら」はどの時間どういうタイミングでやってくるかどうかわからない。それになんだかんだいって、神田くんが私の部屋に現れて二晩過ぎたわけだし。これで神田くんが盛大な家出とかだったら信じてみようかな、と思ってしまった自分が甘かったということで。とりあえずそう割り切ろうかな、と昨晩考えたのだ。


「俺がいていいのかよ。」

「いるって言い出したの神田くんじゃん。」

「俺の話信じてないじゃなかったのかよ。」

「嘘なら今すぐ追い出すけど。っていうか帰れ。」

「嘘じゃねぇ。」


なら、最低でも三日分ぐらい着替えとか必要でしょ?食費とかはとりあえずコシヒカリ(5kg)でなんとかして、また懸賞とか頑張って、光熱費は私がなんとかやりくりすればいい。神田くん自身、あまりかからなさそうだし。


「いいのかよ。」

「そう思うなら早く熱下げて帰ってください。」


そしたら問題はありません。
大解決です。
万々歳です。
そう私がにっこり笑えば神田くんは私を嫌そうに睨み舌打ちをして、またベットに身を埋めた。うわ、年下に舌打ちされた。


「…ムカつく女。」

「どーも。」

「こんな熱、あと一時間したら治る。」

「そんな馬鹿な。」

「…そしたら買い物付き合ってやってもいい。」

「………………。」


…素直じゃないなぁ。

本当、目付きも口も態度も悪いんだから。でも、信じるよ。信じてみることにした。目付きも口も態度も悪い神田くんだけど、嘘をつくような子ではないと思ったから。




「…ナマエ、水。」

「はいはい。」



はじめて名前を呼ばれました。


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