03
目を開けたら昨日の出来事は全て夢だったらいいのに、って思って目を開けたら昨日確かに私のお気に入りのベットに寝かせたはずの神田くんがいなかった。(昨夜は誰がベッドで誰がソファで寝るか少し揉めた。)
「!」
いない。
神田くんがいない。
や、
やったぁー!!(夢オチ万歳!)ありがとう神様!さすが神様!だよね!あんな空間が歪んでバチカンの教団からやってきたエクソシストの神田ですなんてそんなの夢に決まってるよね!もう神様は本当にお茶目なんだからっ!
「なんだ、やっと起きたのか。」
…え。
「早く起きたからこのあたりを走ってきた。」
本当に…、
「どうした。早く顔洗って朝飯作れ。腹減った。」
「………。」
お茶目なんだから…。(…はぁ、)
「これは何だ。」
「…テレビしか言いようがないんですけど。」
この子は…。いつになったら妄想の世界から現実に帰って来てくれるかな。むしろ帰って来なくてもいいから家に帰ってくれ。ていうか私の部屋から出てってくれ。なんでもいいよ早く出てってくれ。
私は適当に付けたテレビの天気予報を見ながら、朝御飯の食パンと目玉焼きとコーンスープを用意した。…彼の歳を考えればもっと栄養と量のあるやつを出した方が良かったのかなと思ったけどすぐにその考えは打ち払った。なぜ私が急に現れた得体の知れない妄想癖持ちの夢遊病患者にそこまでしなきゃならんのだ!神田くんの親に会えたらとにかく何か一発言ってやりたい。…でも私そんな根性ないから多分言えない。
「…そういえば神田くんお母さんは?」
「いない。」
「あれ、父子家庭?お父さんと?」
「それもいない。」
ふーん。意外に複雑なのね。なんか言いづらいこと聞いちゃったかな。でも、神田くん。ご両親と何があったか知らないけど、それもって、モノみたいな言い方よくないよ。っと言いたかったけど根性と勇気がなかった。言いかけてやめた。そんな私に気が付いたのかどうかわかんないけど、神田くんはパンにかじりつきながら言った。
「本当にいねぇ。教団が家みたいなもんだ。」
「教団が…。寮みたいなもの?」
あぁ、神田くんの妄想に突っ込んでしまった。まぁ、いいや。どうせ妄想。いつかボロが出る。ボロが出たらとことんいじってやる。根性と勇気がない代わりに意地は汚いぞ。
「寮…とは違う。色んな役職のやつがいて、仕事したり、訓練したり。」
「役職?そこ働く場所なの?」
そう聞けば神田くんは首を傾げて本当に知らないんだな、と言った。うん。キミの妄想の虚像は誰も知らないよ。
「ヴァチカンの名でつくられた軍事機関だ。」
…なんかバチカンがすごいことになってるよ。ヨーロッパに何が起きたんだよ。あの小さな国にどんな設定を組み込んだんだこの少年は。ローマ教皇が泣いてるよ、きっと。
「まぁ、お前には関係ないがな。」
「あ、あのさ神田くん。私、最初にちゃんと名前言ったよね。」
昨日からずっと気になってたっていうか気にくわなかったことを私は言った。なぜ、私が!年下に!お前呼ばわりされねばならんのだ!だいたい名前を聞いたとき「まずはお前が名乗れ」って言ったくせに!なんだよなんだよ!この歳にしてこの偉そうな態度!どういう風に育ってきたんだ!教団って話に聞く限りたくさん人がいそうだけど、そういう環境で育ったなら上下関係とかうるさいんじゃないの!?
「俺は教団に帰るまでお前の家に厄介になるだけだ。それだけの事にお前と慣れ親しむ必要はないだろ。」
「っ…!?」
む、むかつくー!!なんだこのガキはっ!!私がお前を泊めてやって朝食も出してやってんのがわからないのか!マジで黒の教団とやらに連絡とれたら本当に倍返ししてもらおう!絶対にだ!!
て、落ち着け私。
神田くんの妄想話を受け止めるでない。黒の教団なんてあるわけがないんだ。現に神田くんはそこで育ったような性格してないわけだし。ってあれ、教団がないってことは倍返しもない!?ってことはタダ泊まりのタダ飯!?な、なんてことだ…!私普通に大学生の一人暮しよ!?お金ないからね!仕送りとかそんなもの…!本当にお金も食料もないんだから!ついこの間だって雑誌の懸賞で見つけたコシヒカリ5kgを当てるためにハガキあるだけ書いて送ったぐらいなんだから!と黙々とパンを食べている神田くんを睨んでいると、ピーンポーンと私の部屋に軽快なインターホンの音がなった。
あ、はーい。と玄関を開ければ「こんにちわ!お荷物です!」と宅配便。「ご苦労様です。」とサインしてやけに重たい荷物を受け取ってあれなんだ妙にしっくりくる重さと荷物を見てみると…。
「こ、米(5kg)…!」
「ちなみに俺は和食派だからな。」
「っ!?」
神様は本当にお茶目です。
(これで神田くん養えってか。本当、勘弁。)
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