02




驚いた。


だって後期の試験が終わってこれから大学生お楽しみの長い長い春休みだぜやったーそれじゃぁ取り合えず自分にご褒美のお菓子でも買って家でお茶しよう!とお湯を沸かし始めた時に、部屋が歪んでそこから男の子が出てくるんだから。歳はどれくらいだろう、小学生の高学年か中学生ぐらいに見える。性別は…とても中性的だ。着ている服がノースリーブの男物でなければきっとわからなかった。触ったらきっと気持ちがいいであろうサラサラの黒髪を後ろでキュッと高く結んで、ニキビも知らんつるつるすべすべの肌は女の子みたいに白い。口は私と一緒にこの光景に驚いているのかあんぐりとあいているんだけど、睚がクッと上がっているからか、びっくりするほど目付きが悪い。そして、



「誰だ、テメェ。」



口もすごく悪かった。










「ココアでよかったかな。」

「なんでもいい。」


彼の名前は神田くん。黒の教団のエクソシストで悪魔を倒すのがお仕事らしい。私の頭の中にはエクソシストと聞いて、神田くんと同じくらいの女の子がブリッチしながら階段を降りてくるホラー映画しか出てこなかった。エクソシストってなんだっけ。ええっと、悪魔払いだったか?切り分けたケーキ(テスト開けのご褒美のお菓子)とココアを一緒に出せば神田くんはそれをもぐもぐと食べ始めた。

あの時、確かに部屋の空間がねじ曲がった。景色がそこだけ混ざり合うように歪んで、その歪みがおさまったと思えば神田くんがその歪みからフェードインするように現れたのだ。だからきっと神田くんが言ってる、黒の教団のエクソシストで悪魔を倒すのがお仕事(らしい)は信じてあげようと思う。だいたいこの歳でこんな奇天烈なことを言うなんて少し痛すぎる。だからこの子の言うことはきっと本当だと思う。だから信じてあげようと思う。


なんて、

言うと思ったか。


誰が信じるかそんな奇天烈なこと。神田くんはきっと色々可哀想な子なんだきっと。確実に痛い子なんだ。自分が妄想癖持ちと夢遊病持ちなことに気が付いていないんだ。若いのに大変なんだな…と思ってたら神田くんにすごい睨まれた。


「…言っておくが俺の頭は正常だ。変なこと思ったら殺す。」

「こ、ころすだなんて、」


そんな物騒な。誰も神田くんのこと妄想癖持ちの夢遊病患者だなんて思ってないよ。思ってない思ってない。うん本当。だから睨むのやめてくれるかな。神田くん子供のくせに本当目付きが悪いね。


「ここはヴァチカンじゃねぇのか。」

「日本だけど。」


バチカン…。神田くん随分遠いところから夢遊病ってきたね。あ、いやこれは妄想の方…?あ、嘘です。嘘です。嘘。痛い子なんて本当に思ってないから、思ってないから睨むのやめてくれるかな。


(さて、どうしたものか。)


私はケーキを一口頬張った。…介護の、ヘルパーさんになった友人はボケた老人を接するときになんて言ってたっけ。確か、相手の意見を最初に受け止めて、それから…家まで送る……。バチカンまで?いやいや。


「神田くんお家どこ。」

「だからヴァチカンの黒の教団だ。知らねーのか。」


知らねーよ。どこだよ。


「うーん……。神田くんさ、このケーキ食べたら警察行こっか。」

「あ?」

「…多分、警察の方が親身になって相談してくれるよ。」


神田くんは一瞬、私を目で射殺さんばかりに睨んできた。多分殺すぞとか言いたかったんだろうけど…。ごめん神田くん。私はやっぱりキミの言ってることが本当だと思えないし思ってないから。だからこのケーキを食べたら一応責任持って警察に送るよ。


「いや、警察は面倒だからここにいる。」

「…は?」

「だいたい俺は気が付いたらここにいた。なら気が付いたら教団に戻るかもしれない。だからここにいる。」


ケーキの最後のひときれを口に入れて神田くんは一人結論が出て落ち着いたようにココアを「甘ェ」と文句を言って飲んだ。待て。私は何も結論出してないし落ち着いてもいないんだから。何勝手に自己完結してんですか。


「安心しろ。教団と連絡が取れたら金は倍にして返す。」

「いや、お金とかそういう問題じゃなくて…、」

「その間タダでとは言わない。なんだったらお前の護衛を引き受けてやっても構わない。」

「あ、いや、だからそうじゃなくて…、」

「迷惑はかけない。」

「……………は…はぁ…?」



いや、すでにかけてるから。

(誰か夢オチだと言ってくれ。)


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