03




「じゃぁねぇ、狼さん」

「うんっ!おばあちゃんもあんま無理しちゃダメだよ!」


狼がお父さんの診療所に働くようになってどれくらいの月日が経ったでしょう。
最初こそ患者さん達に衛生面を気にされた狼ですが、毎日毎日お風呂に入る事によりみるみる毛並みが輝き可愛らしい姿を見せるようになりました。また狼自身人懐こい性格をしていたため人間関係は円滑に進み、おまけに美味しい病人食を作るという事で診療所では密かなマスコット的存在になっていました。


「順調みたいだな」

「ユウ君!」


赤ずきんは診療所の裏で洗濯物を干してる狼の姿を見付けて声をかけました。狼は赤ずきんを見るととても嬉しそうに尻尾を振り駆け寄って来ました。


「うん!あのね、すっごく楽しい!お仕事!」

「そうか」

「うんっ!ユウ君のおかげだよ!」


狼は赤ずきんの胸にぎゅうううっと抱き付き尻尾を振り続けました。それに嫌がらずむしろ抱き締めて撫でる赤ずきんも満更でもないというか既に甘〜い雰囲気が何処と無く出ていました。(主従関係に見えなくもないのは黙っておきましょう。)それもそのはず、狼は赤ずきんが大好きで大好きで仕方がありませんでした。狸取りから助けてもらったのを始め、仕事場を紹介(?)してくれたり、その後も何度も(というか毎日)様子を見に来てくれたり、狼の話相手(「ユウ君この間のアンパンマン見た!?」「見てない」「まじでか!鉄火のマキちゃん出てたんだよ!」「鉄火巻き…?」「そう!マキちゃん超かっこいいんだよ!」「鉄火巻きより軍艦の方が良くないか?」)になってくれたりと、狼を何かと気にかけてくれたりするので狼は赤ずきんが大好きでした。
一方赤ずきんも馬鹿な狼に下手な気を使わなくていいというか、好きなだけ虐められる相手を見つけたというか、(コイツの泣き顔悪くねぇんだよな…)とSっ気をかもしつつ、ツンデレの本領発揮です。何だかんだぴこぴこ尻尾を振って駆け寄る狼が可愛くて仕方がないようです。それにさっきも言った通り、狼は赤ずきんにとって気を使わなくていい、話しやすい相手でもありました。まぁ、元々人に気を使うような子でもなかったんですが、会話をしていて楽というのは、まるで赤ずきんのお母さんと同じようなポジションでした。話相手としてね!


「おーい狼ー」

「あっ、田中だっ。ユウ君、私ちょっと行ってくるね!あいつ引退した野球部に差し入れに行ってちょっと投げたら肘痛めたらしいんだ!ばかだよね!」

「………………。」


だけど狼が話しやすいのは赤ずきんだけではありませんでした。診療所に来る人達も狼が話しやすく、狼は常に誰かとお話をしていて、赤ずきんは狼が自分以外の誰かと会話しているのが嫌で嫌で仕方がありませんでした。こうして狼が自分以外の所へ尻尾を振って行ってしまうのも、自分以外の所で楽しそうにしているのを見ると胸が苦しくてむかむかして堪りません。


「なー、狼」

「なにー?」


狼がお父さんに教わった簡単な治療を田中にしていると、田中は目の前の狼をじっと見つめてこう言いました。


「狼はどうしてそんなに耳が大きいんだ?」

「うーん、多分おじいちゃんとおばあちゃんの声聞き取りやすくするためじゃないかな!ここ、おじいちゃんおばあちゃん多いし!」

「じゃぁ、どうして狼の目はそんなに大きいんだ?」

「あれじゃね?未来を見据えるためじゃね?」

「まじでか。意外と将来の事とか考えてんだな!」

「お前よりはな!」

「じゃーこれ最後な。」

「まだあんのかっ」

「なんで狼の口ってそんなに……」


田中が狼とお喋りをしていた時でした。田中と狼の間に腕が伸びてきて、狼の体が大きく傾きました。狼はそのまま倒れるのかと思いましたが、傾いた体はぽすんと後ろにあった何かに支えられ、ぎゅっと後ろから抱き締められました。狼を後ろから抱き締めたのは、赤いずきんを被ったそれはそれは綺麗な顔立ちをした青年。


「ユウ君!」

「ユウ君!」


赤ずきんは狼と田中の距離を空けるように狼を抱き締めたままずりずると引き寄せ、田中にこう言いました。


「コイツの口は俺のためにあんだよ」


そして半分連れ去るようにして赤ずきんは狼を田中から離しました。狼の手を取って診療所を走って出ます。赤ずきんは何処に行くつもりなのでしょう。狼は「ユウ君、ユウ君どうしたの?」と引っ張られ続けて森に引き摺り込まれていきます。どうしましょう。狼にはお父さんに頼まれたお仕事も、病院食を作るお仕事も、あとついでに田中の治療も残っています。それなのに赤ずきんは狼を何処に連れて行くつもりなのでしょうか。
赤ずきんは狼の手を引き、どんどん診療所から離れた森の中に連れて行きます。そして森の奥へと連れて行くと狼の手を乱暴に引っ張って、大きな木に押し付けるようにしてキスをしました。


「っ!」


いきなりです。びっくりです。ムードとかそんなものありませんでした。本当にいきなり赤ずきんの整った(整いすぎている)顔が迫ったと思うとまるで噛み付かれるようにキスをされて狼は目を真ん丸にします。しかし噛み付かれたのは最初だけ。あとはいきなりキスをされたのを忘れるぐらいちゅっ、ちゅっ、と優しく優しくキスを繰り返されて、狼の驚いた目はその内とろんとしてきました。そして最後に、ちゅぅ、と可愛らしい音を立てて唇が離れた時は狼は赤ずきんに支えられて立っているようなものでした。とろけた呼吸を繰り返す狼の腰には赤ずきんの腕がしっかりと回されています。


「俺以外の奴に触るな話すな会うな」

「ゆ、くん…ま、待って」

「見てると苛々する。お前が、俺以外の奴と一緒にいるのを見ると。」


みみ、おでこ、こめかみ、めじり、ほっぺ、と赤ずきんは狼にキスを落としていきました。まるで俺のものだと言わんばかりに好きにされているのに、狼はそれが嫌ではありませんでした。むしろ少し怖い事を言われているのに、落とされるキスがとても甘く優しくてそのギャップにくらくらと眩暈を覚えているくらいです。何度も何度もちゅっちゅちゅっちゅと森の奥でそれは繰り返されました。


「ゆう君…っ!ま、待ってってば!」


そしてもう何度目かの眩暈に狼はくらくらする頭を振り切って赤ずきんの胸を力一杯押し返します。赤ずきんの胸は十分に狼を楽しんだせいか簡単に離れ、そして狼が押し倒すような形で地面に倒れました。狼は少し驚いた顔している赤ずきんを跨るようにしてその上に座ります。狼は潤んだ瞳と赤いほっぺの顔を赤ずきんに向けて、恥ずかしそうにこう言いました。


「そ、そんな事すると…っ、私、赤ずきんごとユウ君のこと食べちゃう、よっ!」


赤ずきんの胸に置かれている狼の小さな手はぷるぷると振るえ、耳も細かく震えていました。そんな狼を見て赤ずきんは無意識に口の端っこが上がるのを感じられずにはいられませんでした。そして真っ赤なりんごのような狼のほっぺを両手で包んで、その唇を引き寄せました。


「食っちまえよ」


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