04




赤ずきんに誘われるように狼が口付けようとした時でした。

ドォンッ、と森に大きな銃声が響きました。木に止まっていた鳥がばたばたと飛び去っていき、ついさっきまでイチャコラしてた二人はびっくりして起き上がります。狼を片腕で引き寄せて守るようにして赤ずきんは辺りを見渡します。すると向こう側に煙を上げる銃を片手に持った猟師がそこにいました。おでこにホクロを二つの金髪猟師です。


「りょ、猟師のハワード・リン君だっ!っていうか猟師ルック似合わねぇっ!」

「ハワード・リンクです。」

「猟師…だと…?確かに猟師ルック似合ってないな」

「貴方達この服装にしか着眼点ないのですか」


猟師の持っている銃は何処に撃たれた形跡もなく、ただ威嚇射撃をされただけのようでした。しかし猟師は今度こそ狙いを定めたかのように銃を構え、銃口を二人に向けました。いいえ、狼にです。


「離れなさい。その狼は人を襲います。」

「ま、まだ襲ってないもんっ」

「そうだ、これからだった。」

「少しは慎みを持ちなさい。」


恥ずかしげもなくイチャコラしてる赤ずきんと狼を猟師は森を歩いている所で見つけました。赤ずきんに跨り息荒く口付けようとする狼の姿に猟師は危険だと判断し、まずは威嚇するように空に銃を撃ちました。ですがまるで狼を守るように大事そうに抱えて起き上がった赤ずきんに猟師はぶっちゃけ混乱していました。狼は確かに赤ずきんを食べようとしていました。しかし食べられそうになっていた赤ずきんはそれを受け止めるように、むしろ望んでいるようにイチャコラしていました。こいつらもしかしてただのバカップル?いやいやそんなまさか。だって人間と狼ですよ。狼は肉食獣。きっと赤ずきんを騙して食べようとしたに違いありません。
猟師はそう思って銃を狼に向けるのですが、狼と一緒にいる赤ずきんが一向に引く気を見せません。どうしたものか、と猟師が銃口を迷わせている時でした。


「なになに、何があったの?あら猟師さん?」

「母、さん…っ」


銃声を聞いてやってきたのか、赤ずきんのお母さんが木と木の間からひょっこり出てきました。なぜここにお母さんが、と赤ずきんは思いましたが、森奥を歩いている内に自分の家の近くに来ていたようです。そう言えば見知った道があっちに見えるなぁ、と一人思っているとお母さんは猟師を一瞥したにも関わらず赤ずきんに駆け寄り、その膝に乗っている狼にいきなり抱き付きました。


「母さん…?」

「あぁもうこの馬鹿っ!探したのよ!!」

「お、おかあさ…っ、ど、どうして、ここに!?」

「は…?」


思いっきり狼に抱き付いたお母さんは狼に頬を摺り寄せて、狼はそんな赤ずきんのお母さんの事を「お母さん」と呼びました。どういうことなのでしょう。赤ずきんは今にも泣いてしまいそうなお母さんの姿とびっくりして目を大きくしてる狼を交互に見比べましたが、お母さんには狼に「お母さん」と呼ばれる耳も尻尾もありません。


「ちょっと待て、どういう事だ。」

「ユ、ユウ君、あのね、この人は…っ」

「この狼は随分前から私が面倒見ていた子なのっ。でも、お父さんと結婚した時に、どっかに消えちゃって…!たくさん探したのよ!」


最後は狼に叱るようにお母さんは狼のほっぺをべちべち叩いて、その叩きが優しくないのは狼のほっぺを見ればわかる程でした。いきなりの超展開に赤ずきんは眉を寄せ、同じく猟師も首を傾げました。


「失礼、ご婦人。貴女が狼の面倒見ていた、とは…」

「そのままよ。近くの括り罠に引っ掛かっていたこの子を見つけてからずっと世話を見てたの」

「お前、よく罠に引っ掛かるんだな」

「へへっ」

「褒めてねぇって」


なんと赤ずきんのお母さんは以前狼が言っていた「お世話になっていた人」だったようです。狼とお母さんが前まで二人で暮らしていた事にはさすがの赤ずきんと猟師もびっくりしていました。お母さんは狼にどうして家を出たのか聞きました。狼は気まずそうに赤ずきんをちらりちらり見ながら全てを説明し、赤ずきんはそんな狼の手をずっと握ってあげていました。狼はお母さんが結婚したら自分が邪魔になるのではないかと思ったと伝えればお母さんは狼に「馬鹿ね」と笑って優しく狼を抱き締めました。


「猟師さん安心して。この子は人を襲えないし、狩りも出来ない子よ。お肉なんてスーパーで売ってるものしか駄目だもの」

「失敬な!たまにはちょっとお高いお肉だって買いますよ!」

「母さんはそういう意味で言ったんじゃないと思うが」

「……まったく」


お母さんに守られるように抱き締められ、赤ずきんに優しく手を握られている狼を誰が危険と言えるのでしょう。猟師はこれでは撃てません、と銃口を下げました。


「貴方方はこの狼をきちんと管理するのですよ。もし人を襲うような事をしたらその時は必ず撃ちます。」

「安心しろ。襲う前に襲い返す。」

「!?」

「あらあら」


もうそんな関係なのうふふと笑うお母さんとにやにや笑う赤ずきん、そして固まる狼に猟師は小さく笑ってまた森の中へと消えていきました。きっと猟師があの銃で狼を撃つことはないでしょう。なぜなら、あの狼は人間に愛される少しお馬鹿な狼だとわかったからです。

赤ずきんとお母さん、そして狼は猟師を見送り、三人で心配しているだろうお父さんの診療所へ向かいました。
道中お母さんは赤ずきんの頭巾を外し、それを狼に被せてあげました。きょとんとした顔(アホ面)の狼に少し大きめの赤頭巾はよく似合っていました。


「ごめんねユウ君。これ、本当はこの子のために作ってあげたものなの」

「みたいだな。よく似合ってる。」

「ほんと!?か、かわいい!?」

「かわいいかわいい」
「かわいいかわいい」


ぱたぱたと尻尾を振る狼に赤ずきん、いいえ、ユウ君は頭を撫でてやり、赤頭巾を被った狼は嬉しそうに笑っていました。そんな二人をお母さんは幸せそうに見守っていました。

診療所に着くと急に居なくなった狼とユウ君、そして銃声をとても心配していたお父さんが診療所の前で立っていました。そしてお母さんが赤頭巾を被った狼の肩を叩いてお父さんににっこり笑い掛け、お父さんもそれを見てにっこり笑い返しました。


「私の娘です。」

「これは、可愛らしい赤ずきんちゃんだ。」


こうして、狼はユウ君のお家にお世話になるという形ではなく、家族として、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。



赤ずきんちゃんユウ君





あ、最後になりましたが、田中は無事治ったみたいです。良かったね。


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