02




最後の最後まで手を振っていた狼に赤ずきんは一度も振り返らずにお父さんの所まで歩きました。残りの道中は何事もなく、赤ずきんは真っ直ぐお父さんが働く小さな診療所に到着します。トントンとノックをして扉を開ければ白衣を来たお父さんが出迎えてくれました。


「あぁ、ユウ。今最後の患者さんが帰ったところだよ。」

「そうか」

「あ、夜食?ちょうど良かった。帰る前に何か入れたかったんだ。」


お父さんはそう言いましたが赤ずきんは気まずそうに空のバスケットをお父さんに見せます。お父さんのお夜食はそう、狼に全てあげてしまったのです。


「悪い…途中狸取りに掴まった狼にあげた。」

「ごめん、もっとわかりやすく言ってくれる?」


赤ずきんはお父さんに全てを話します。森で狼に会ったこと、助けてあげたこと、お父さんのお夜食を狼に全てあげてしまったこと。
せっかくお母さんから頼まれたお使い。お夜食を持ってこれなくて悪かった、と赤ずきんはお父さんに謝りました。お父さんは赤ずきんを怒りませんでした。むしろ素直に謝った赤ずきんににっこりと笑って「大丈夫だよ、狼を助けたかったんだよね」と赤ずきんを撫でました。赤ずきんはそれを照れ臭そうに払って小さな台所に立ちます。狼にお夜食をあげてしまった代わりに何かを作ってあげるようです。

その時でした。診療所の扉がトントンと叩かれてお父さんは首を傾げます。診療所の扉にはもう「休診中」の看板を下げたはず。でも急患かもしれない。そうお父さんは扉を開けたのですが、扉の向こうには真っ暗な森が広がっているだけで誰も居ませんでした。その代わりに。


「あれ…」

「どうした?」

「ユウ、これ」


扉を開けたまま立ちっぱなしのお父さんに赤ずきんはどうしたのだろうと近寄ります。そしてお父さんが見下ろした足元へと同じく視線を下ろせば、そこにはキレイな花束とキノコや山菜などが大きな葉っぱをお皿に玄関前に置かれていました。


「…山の幸ギフトだね」

「…だな」


一体誰がこんなことを。一体誰が山の幸ギフトをここに届けに来てくれたのでしょう。赤ずきんは山の幸ギフトを手に取り、そして隣に置かれた花束に気付きます。これはあの狼を助けた時に咲いていた花々です。ひらり、と落ちた花弁を拾って赤ずきんは微苦笑します。山の幸ギフトからてんてんと診療所の裏に繋がるように花弁が落ちているではないですか。赤ずきんはギフトをお父さんに渡してその落ちている花弁を辿ります。すると診療所の裏の壁にふっさりとした尻尾がぱたぱたと揺れているのが見えました。赤ずきんはそれに意地悪そうな顔をして、


「何してんだよ」


ぱたぱた動く尻尾を軽く踏みつけました。
キャンッと壁に隠れていた狼が鳴きます。狼は完璧だと思っていた自分の隠れ方がバレてびっくりしました。そしてそこにいた赤ずきんにもびっくりしてピャーッと逃げようとしたのですが尻尾が踏まれていて動けません。


「ちょっ、足!足っ!」

「誰が逃がすか」


森へ逃げようとする狼を赤ずきんはドSの笑みで捕まえて放しません。どうやら狼のキャンキャン鳴く(泣く)様子がお気に召したようです。良かったね。


「ユウ?どうしたの……って、これは可愛らしいお客さんだ…」


逃げ出す狼を抱える(捕まえる)とお父さんがやってきました。お父さんは赤ずきんの腕の中にいる小さな狼に、すぐ赤ずきんの言っていた狼だとわかりました。


「ちょうど良かった。父さん、コイツの足を診てやってくれ」

「うん。」


山の幸ギフトを見繕って届けに来たからでしょうか、赤ずきんが手当てした足はぼろぼろに擦れていていました。赤ずきんに抱えられたまま狼は診療所に入り、お父さんの手当てを受けます。赤ずきんの手当ても丁寧でしたが、お父さんの手当てもとっても丁寧でした。ちょっと染みる消毒をされて、真っ白な包帯で足を巻かれました。


「はい、できたよ。」

「あ、ありがとうございますっ…」

「どういたしまして」


消毒をして包帯が巻かれた足に赤ずきんは安心したように一息つきました。せっかく手当てをしてあげたのにお礼をしに来て悪化してしまったらせっかくの手当てが台無しです。


「山の幸ギフト、ありがとね」

「あっ、い、いいえっ。私の方こそお世話になりっぱなしで…あの…その…っ」


ちらちらと赤ずきんを見る狼に赤ずきんは気にするなとばかりに頭を撫でてあげました。柔らかい狼の(髪の)毛はとても触り心地が良く、狼も撫でられて気持ちがいいのか尻尾が揺れていました。


「さて、このまま帰ったら餓死しちゃいそうだね。ユウ、何か作ってくれるかい?」

「カップ麺でいいか?」

「あ、あのっ…!」


ヤカンとカップ麺を台所から出してきた赤ずきんに狼は慌てて立ち上がりました。だんっと立ち上がった際に足に響きましたがそこはぐっと堪えます。


「お、お夜食、私に作らせてくださいっ!!」




と言った狼の手際は素晴らしいものでした。先程の山の幸ギフトと一緒に、冷蔵庫にあった余り物でぱぱっと軽食を作ったのです。その出来上がりの早さと美味しさに赤ずきんとお父さんはとても驚きました。


「美味しい!」

「…まあまあだな」

「よ、良かったぁ〜。」


狼が作った軽食をお父さんと赤ずきんはぺろりとたいらげました。狼はそれに安心したようにふにゃっと笑いました。


「料理は得意なの?」

「と、得意というか…。あの、私ちょっと前まである人のお世話になってて。その人お仕事大変だから食事とか、よく作ってたんです。」

「ちょっと前って…今は違うのか?」

「今はあの…、お世話になってた人が結婚しちゃって。お家を出たんです。」

「追い出されたの!?」

「ち、違いますっ。私が…、その人が結婚したら私、邪魔だろうなって…。勝手に出てったんです。」


しょんぼりと耳を垂らす狼にお父さんはそれは大変だったろうに、と狼の頭を撫でました。赤ずきんも元気なく振る狼の尻尾が見ててとても可哀想でした。


「それで、自立しようって思って狩りをしてみたんですけど、逆に狩られた時にユウ君に助けてもらったんです」

「狩られたって…」

「狸取りだ」


どうやら赤ずきんが助けたあの時、狼は狩りをしていたようです。狼が狸取りに捕まっていたのは、ただ狼が馬鹿…どんくさいだけではなく、狩りに不馴れだったからみたいです。
狩りに不馴れな狼。これは困った事でした。いくらこの狼が草食系狼なベジタリアンだとしても元々は肉食獣。料理が出来ても狩りが出来なければ狼としてやっていけません。赤ずきんは考えました。どうしたらこの馬鹿な狼を救えるだろうか。そして閃いた考えはすぐにお父さんも思い付いたようで、二人は力強く頷き合いました。


「ここで働けよ」

「えっ!?」

「うん、働いてくれないかな。ちょうど人が一人減ってたんだ。ここで病人食とか簡単な手当てとか手伝ってくれるとすごく助かるんだ。」

「で…でも、私、狼で不衛生…エキノコックス持ってるかもよ!」

「あれキミはキツネなの?」

「狼です!!」

「なら大丈夫だよ(多分)」

「お前のメシ喰った俺らも何ともないし(多分)」

「でも…」

「働いてくれたらここで寝泊まりしてくれて構わないよ」

「ま、まじですか!」

「うんまじまじ」

「問題ないな。働け。」


ここで働く以外どうしようもないのに、でも、と続ける狼に赤ずきんは思いっきりデコピンをしました。ずびしっととてもいい音がしました。狼涙目です。(本日二度目)だけどそれだけじゃ終わらないのがこの赤ずきん君の特徴。まだまだ渋る狼の顔をガッと掴んでアイアンクロー!


「狸取りと病人食作り(衣食住付き)どっちがいい…?」

「びょ…びょうにんしょく…やらせてくださ…」


勝利のゴングが鳴り響きました。カンカンカンカンッ!


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