赤ずきんちゃんとユウ君


ろんぐろんぐあごー。


あるところに、赤ずきんと呼ばれる目付きのそれはそれは悪……、目尻がシュッと上がった青年がいました。一応神田ユウという名前があるのですがユウと呼ぶとものすごく怒るっていうか睨み付けられるっていうか空気が寒くなるので、『そういえばアイツお母さんに赤ずきんもらってたよな』、『あーあれねー、アイツ再婚したお母さんにはとことん弱いって噂らしいぜー』、『あーだから文句言わずに被ってんだ、手作りらしいよ』、『まじでか、まぁ似合ってるからよくね?』『ま、イケメンは何着ても似合うよなー』ってことで赤ずきんと呼ばれていました。

赤ずきんのお家は少し前まで父子家庭だったのですが、今はお父さんが職場で新しいお母さんを見つけて三人で暮らしています。継母、とは言いますが赤ずきんは再婚したお母さんが嫌いではありませんでした。お父さんが選んできた人っていうのもありますが、何よりお母さんが気さくな人で、気のおけない人だったからです。今じゃまるでずっと家族だったかのようにお母さんにお使いを頼まれています。


「赤ずきん君、赤ずきん君。お使いを頼んでいいかしら。」

「…変に呼ばないでくれ」


ほら、今日もお母さんが夜遅くまで働いているお父さんに差し入れのお弁当を渡すよう、赤ずきんにお使いを頼もうとしています。


「あら、でも村の子達はみんなそう呼んでるわよね?可愛いニックネームじゃない。」

「…………。」

「ふふっ、冗談よユウ君。はいこれ、お父さんにお夜食を届けてくれないかしら。」

「ん。」


ユウ君と呼ばれた赤ずきんはお母さんからお夜食が入ったバスケットを受け取り赤ずきんを被り直しました。赤、と言っても深い赤で落ち着いた彼にはよく似合った色でした。


「じゃ、行ってくる」

「いってらっしゃい。道中気を付けてね。」


お母さんに見送られて赤ずきんは家を出ました。お月様とお星様がきらきら光る空はとてもキレイでしたが、とても危険でした。何故ならばお父さんが働いてるお仕事場までは森を通らなければなりません。真っ暗な森はとても迷いやすく、おまけに狼が出ると言われているので決して一人で歩いてはいけません。でも大丈夫!この赤ずきんは狼が可哀想になるぐらい強い子でした。初期装備、赤ずきん(防御率+50)、竹刀(攻撃率+150)、目付き悪い(恐れ率+520)、イケメン(補正率+1000)だったからです!

って、それじゃお話が進まない?まぁまぁ大丈夫。そんな赤ずきんがあってもいいじゃない。彼は彼なりのお話があるのですよ。ほら、見てください。森を歩いてる赤ずきんが何かを見付けたみたいですよ。


「あれは…」


お父さんの所まであと半分くらいの距離を歩いたところで赤ずきんは足を止めました。そこにはお月様の光に照らされたとても美しい花畑が広がっていました。夜なのにお花が咲いてるのは演出上の都合です。赤ずきんはその中で、あるものを見つけます。いいえ、ある一匹の狼ですね。くりくりと大きな瞳にぴょこんと頭に生えたお耳。お尻にはふさふさの尻尾がありました。


「犬…?」

「犬じゃないもん狼だもんっ!!」


狼と呼ぶにはあまりにも小さなサイズのそれに赤ずきんは首を傾げましたが狼はキャンッと吠えました。


「狼が何してんだよ」

「た…狸取りに引っ掛かった…」

「悪い、狸だったか」

「狼だもんっっっ!!」


キャンキャン吠える狼はお花畑でぺたりと座り込んでいました。よく見れば狼の言う通り、狼の足に痛そうな狸取りの刃が食い込んでいます。狼はそれに痛そうに吠えていて、赤ずきんはとても可哀想に思いました。


(狸取りに引っ掛かるようじゃ狼も終わりだな…)


なんて冷たいことを思う赤ずきんは仕様です。でもでもそんな赤ずきんですがキャンキャン吠える狼が本当にうるさい…、可哀想に思えたのか、狼の傍によって狸取りの刃を取ってあげることにしてあげました。


「じっとしてろ。」

「?」

「足がもっと傷付くぞ」

「う、うんっ」


なるべく狼が痛くならないよう、ゆっくりゆっくり取ってあげます。途中、狼が小さくキャンッと吠えましたが涙は堪えてました。そんな狼に赤ずきんは小さく笑って、よいしょ、と狸取りから足を取ってあげました。


「わっ、取れた!」

「痛くないか?」

「痛いよ!」

「正直だな」


赤ずきんは傷付いた狼の足にハンカチを巻いてあげました。バスケットに被せていたハンカチです。


「すげー!きみ処置うまいね!お医者さんなのっ?」

「医者は父さん。俺はまだ勉強中だ。」

「そうなんだっ。偉いね!」

「偉い、か?」

「偉いよー!だってお医者さんっていっぱいいっぱい勉強しなきゃいけないんでしょ?だったら偉いよー。」


尻尾をぱたぱた振って狼は言いました。「そう…か?」「そうだよー!」「そうか…」「うんっ」「……」赤ずきんも満更でもありません。馬鹿な狼…純粋な狼は狸取りから助けてくれ、おまけに手当てまでしてくれた赤ずきんが気に入ったようです。しかし赤ずきんに尻尾をぱたぱた振り続けていると、きゅうううう、と狼のお腹が鳴りました。


「…お前、腹減ってんのか」

「えっ!?へ、減ってないよ!減ってないし!お腹なんて鳴ってないし!きゅうううう、とかあれだし、お月様が鳴いてんだって!私じゃないし!お腹なんて全然空いてないし!!」


尻尾同様手までぱたぱた振る狼に赤ずきんは苦笑してしまいます。どうやら狼はとてもお腹を空かしているようです。赤ずきんはお母さんに渡されたバスケットを見て少し悩んだ後、そのバスケットに入ってあるサンドイッチを狼にあげることにしました。


「ほら喰え」

「えっ…!いいよ悪いよっ!こ、このあとなんか適当に食べるしっ」

「その足じゃ何も捕まえられないだろ」


むしろまた狸取りに捕まりそうです。


「わ、わたし…草食系狼なベジタリアンだし…!」

「意味が重複してんぞ。まぁ、ちょうどいい。トマトサンドだ。」

「ううっ…。で、でもきみ、これ持ってどっかに行く予定だったんでしょ…?」

「父さんの所でまた何か作ってやればいいし」

「ほ、ほんと…?」

「ホント」


なかなか受け取らない狼に赤ずきんは笑ってしまいます。そして手に持ったサンドイッチを狼の口元まで持っていき、


「ほらよ」

「あぐぅっ…!!」


突っ込みます!
狼は一瞬(殺られる…っ!)と思いましたがサンドイッチが突っ込まれた後、赤ずきんの手は口から離れ、優しく狼の頭を撫でました。


「もぐ…」

「上手いか?」

「もぐもぐ、」


こくん、と頷いて狼はサンドイッチをもぐもぐ食べました。やっぱりまだ遠慮しているのか耳はぺったりと下がったままですが尻尾はぱたぱたと左右に揺れています。そんな狼に赤ずきんはもっとサンドイッチをあげたくなり、ついにバスケットごと狼にあげてしまいました。狼はもちろん断りました。だけど赤ずきんは有無を言わさず狼の口にサンドイッチを突っ込み全部食べさせました。狼涙目です。


「ご、ごちそうさまでした…!」


しかし狼も空腹には勝てなかったのか、突っ込まれつつも全て平らげ、きちんと両手を合わせて赤ずきんと空になったバスケットに頭を下げました。赤ずきんはそんな狼をよしよししつつ、立ち上がります。そろそろお父さんの所に行かないといけません。


「じゃ、俺は行くから」

「あっ、ま、待って!」

「ん?」

「名前はっ?赤ずきん君っ」


立ち上った赤ずきんを狼は呼び止めました。赤ずきんはしばらく悩んだ後、やっぱり赤ずきんという呼び名も嫌だな、と狼にこう言いました。


「神田ユウ」


狼は赤ずきんの名にそれはそれは嬉しそうに笑って、背を向けた赤ずきんにずっっっと手を振り続けました。


「ばいばいっ!ユウ君!」


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