嫉妬



昨日、ハワードに会ってからご主人様の機嫌が、悪い。昨日はちょうどお仕事帰りだというご主人様と偶然に会って、その前に知り合いのハワードに会ってて、ご主人様とハワードが少し会話した後、何だか引き摺られるようにしてご主人様に手を引かれて帰ってきた。それから、ご主人様の機嫌が、すごく悪い。

私を見て、何かを言いかけて、目をそらす。そして何も言わずに終わる。その仕草が少し苛立ってるようにも見えて、怖い。私はご主人様に何か、してしまったようだ。何をしてしまったのかはわからないのだけど、何かをしてしまったのはわかる。いっそ叱ってくれればいいのにと思うけど、きっと優しいご主人様のことだから、言わないのだ。叱らないのだ。ごめんなさい、と言えれば良かったのに。

食後のコーヒーはすっかり冷めていると思う。ソファに座って机のパソコンをカタタタと打ってるご主人様の手はだいぶ前からパソコンから離れていない。時折、パソコン越しから私をちらりと見て、私は顔を上げるけどすぐに目をそらされてしまう。その仕草に心臓がきゅうううっと絞られた感覚になって泣きそうになる。

今日は未だご主人様に話しかけられてない寂しさをご主人様の毛布にくるむことで紛らわした。くるまって、カーペット外のフローリングの上で小さく蹲る。ご主人様のお側にいきたいと思いつつ、ご主人様のお側にはなんとなく行けない、と、久しぶりにフローリングの上で昼寝をした。と言ってもご主人様が気になって目を閉じてるだけだったのだけど、そんな時、インターホンの音が鳴って私は起きる。

まだパソコンを打ってるご主人様を横目にインターホンのカメラを覗く。するとそこには大きな紙袋を肩にかけたリナリーさんがにっこり手を振っていた。






「お邪魔します、ナマエ。」


いらっしゃいませ、こんにちわ、リナリーさん。
大きな紙袋を肩にリナリーさんはにっこり笑って、私はそれに力なくお辞儀した。あぁ、だめ。ちゃんとお迎えしなくちゃいけないのに…。そう思っても、何だか今日の私は調子が悪い。なんだか…元気が、出ないのです。どうして、と問われるとすぐにご主人様のお顔が浮かび上がる。今日は本当、一言もお声をかけてもらえてなくて。なんだろう。寂しい、という言葉じゃない。もっともっと心がぐりぐりされる感覚。ちらり、ご主人様の顔を見て、耳と尻尾が自然と垂れる。


「ナマエ?どうかした?」


覗き込まれるようにされて私はハッと顔を上げる。あ、ごめんなさい、今、コーヒーをいれます。そうキッチンに行こうとしたらリナリーさんに「待って」と止められた。そしてリナリーさんがソファでずっとパソコンをカタタタ打ってるご主人様に眉を寄せて目を細めた。


「神田?」

「………」

「かーんーだー?」

「……………」


リナリーさんの少し低い声にご主人様が居心地悪そうに咳払いをした。リナリーさんはそんなご主人様に溜め息を一つ。「もう」と小さく言って腰に手を当てて、私の頭を撫でた。


「よくわからないけど、何かごめんね、ナマエ。」


リナリーさんの手は私の頭を優しく撫でてくれて、よくわからないけど、何だか泣きそうになってしまった。泣いちゃ、め。うぐっと下唇を噛むとリナリーさんは苦笑して、ぱちんとウインク、した。


「で、ごめんねついででアレなんだけど。ちょっと付き合ってくれる?」


……う…?




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