02



ご主人様の居ない寝室で(ご主人様は、リビングだ。)、ぷちん、と糸を切る音がして、リナリーさんに渡されたスカートに私は足を通した。短いプリーツスカートにはちゃんと尻尾を通すところがあって、その穴に尻尾を通して着てみると、妙にしっくりきた。鏡の前でくるりと回るとスカートがふわりと揺れて、すぐにリナリーさんが飛び付いてきた。(わっ)


「可愛い!可愛いわナマエ!!色々調整したいところもあるけど、とにかく可愛い!!」


ぎゅううううと抱き締められて、ちょっと(いやかなり)照れる。リナリーさんのいい匂いが鼻一杯に香って、ふわわ〜と幸せになる頭をなんとか振り切って、あ、あの、わたし、獣人なのでっ、と体を離そうとするとぎゅううううと抱き締められている形から尻尾をしゅるりと撫でられる。(ぴっ…!)


「ふふ、尻尾可愛い〜。」


おまけにふにふに触られて、くすぐったいような変な気分になって身を捩ればリナリーさんが「ごめんごめん」と言ってぱっと体を離してくれた。私は小さく首を振って大丈夫です、と鈴を鳴らした。
リナリーさんは抱き締めてちょっとだけ乱れた私の上着を軽く直して、屈んでスカートのプリーツを指先で遊ぶように整えていた。あ、あの、リナリーさん、さっきから何をしているのでしょうか。ちょっと足を引くと「動かないで」と言われて、ぴっと立っておく。リナリーさんはこの間買い物に出掛けた時に見た大きな紙袋から布やらボタンやらを出してあれでもないこれでもないとうんうん言って、これだっ!とレースを取り出した。レースはすぐに私の着てるスカートにあてられて、スカートにそのレースと待針が刺さる。


「ナマエ、あのね。」


わたし、マネキン、かな。これ、リナリーさんのお仕事、かな。なら、真っ直ぐ立ってなきゃ。と気合いを入れて立っていると、それを見たリナリーさんがくすっと笑ったような気がして、リナリーさんの頭を見下ろしてると、リナリーさんがスカートとレースをあてながら、静かに口を開いた。


「私、モデルをやってるんだけどね。」


ちりん、と鈴を鳴らした。
(あ、昨日、見ました!表紙!とても可愛かったですっ)


「今度、自分でブランドを立ち上げようと思っているの。」


ちりりん、鈴を鳴らした。
レースと待針がスカートにするするとついてって、リナリーさんの手が止まる。レースが一週し終わった。鏡の前を促されて立ってみると、先程と印象の変わったスカートがそこに映っていて、それを私が着ていた。リナリーさんが鏡越しに私を見ている。


「コンセプトは、ハーフの人も着れる服。今の服って人間用に作られているでしょう?ハーフの人はそのお下がりを着て、自分の体に服を作り合わせてる。それっておかしいと思うの。それじゃハーフの人が服に着せられてるじゃない。私は、その人に合った、その人の服を作りたいの。」


ナマエに合った服を選んだり、作ったり、着てもらったりしてほしいの。リナリーさんは言った。
その時、可愛いリナリーさんの大きな瞳に、何かあっついものを感じた。そしてリナリーさんが後ろの紙袋から大きなファイルを取り出して広げる。「見て」と短く言われて、私は待針に気を付けながら屈んだ。リナリーさんが広げたファイルにはたくさんの洋服のデザインがいっぱい、いっぱいいっぱい、描かれてて、一枚一枚めくるたびに飛び込んでくる素敵な服達に、私の目はきらきらした。


「それでね、ナマエ。」


そして気付く。

一枚一枚飛び込んでくる素敵な服を着ているデザイン画の人は、
黒い獣耳に、尻尾を生やした…、

わた、し…?


「ナマエに私のブランドのモデルをやって欲しいと思ってるの。」







[*prev] [next#]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -