02
「あ?出掛ける?」
お味噌汁を口に付けようとしてご主人様は(見た目の割にはたくさん食べる)モヤシさんを見た。モヤシさんは頬にご飯をいっぱい含んでお魚と一緒にもしゃもしゃ食べている。朝ご飯はお家で食べてきたそうだけど、ご主人様がご飯を食べているのを見て食べたくなったという事で、今、二杯目のご飯を渡した。
「この間ラビと来た時に言ったじゃないですか。一緒に出掛けましょうって。ラビが車でリナリーを迎えに行ってますから…多分そろそろ来る頃だと。」
「…聞いてねぇ。」
「言いましたよ。でも神田が僕達来てすぐに追い返したじゃないですか。15分くらいで。」
…どうやらご主人様はモヤシさん達とお出掛けするようだ。そろそろリナリーさん達も来るならコーヒーの準備でもした方がいいのかな。でもリナリーさん達来たらすぐに出掛けるのかな。あ、ご主人様のジャケット出しておこう、そうキッチンを出るとリビングドアの向こうから玄関の開く音がして、「ユーウー!」の声が聞こえた。この明るい声はラビさんだ。(噂をすればなんとやら…?)どたどたとすぐにラビさんの足音が聞こえて、その後ろから付いてくる足音がもう一つ。軽い足音はリナリーさんだ。
「おはよーさー。って、まだメシ食ってなかったのか。」
「おはよう…って、神田まだ着替えてないの?」
「朝っぱらからうるせぇ。」
がちゃり、リビングドアから現れたのはもちろんラビさんとリナリーさんで。おはようございます、そう頭を下げればリナリーさんがすぐに駆け寄ってきた。
「おはようナマエ。今日は皆でショッピング行くよ。化粧道具持ってきたから、今日はお化粧しようね、ナマエ。」
リナリーさんににっこり言われた言葉に私はちりんと鈴を鳴らして、また頭を下げる。
はい。いってらっしゃいませ。
声が出ない口でそう言うと、口の形でわかってくれたのか、リナリーさんはきょとんと目を丸くして(…かわいい)、それから頬をぷうと膨らました。
「ちょっと、ナマエも一緒に行くんだよ。服だってほら、新しいの持ってきたから。」
今日はこれに着替えてね、と渡された紙袋にはいつものように服が入ってて(私はいつもリナリーさんから服を頂いている)、今日は、これに着替えるの?でも、出掛けるのは、ご主人様だけじゃないの?そうリナリーさんを見ればリナリーさんが口を尖らして、顎を引いて、私を上目に見た。
「ナマエは私達とお出掛けしたくない?」
形の綺麗なボブヘアーをさらりと揺らしたリナリーさんに私は慌てて首を振った。そ、そんな事ありませんっ。あ、あの、リナリーさんが、皆さんがよければ、わた、私でよければ、あの、皆さんのお供させて頂きます…!返事ができない代わりに首をぶんぶん振って鈴をぢりんぢりん鳴らせば、リナリーさんはにっこり笑い直した。
「うん。良かった。今日はいっぱい遊ぼうね、ナマエ。」
きゅっと両手を握られた。わ、わたし、獣人だから、と手を離そうとしたけど、リナリーさんは構わずきゅうきゅうと手を握っててくれた。リナリーさんの手、白くて、すべすべで、いい匂いがして、温かかった。ご主人様の恋人はやっぱり、とても可愛くて綺麗でいい匂いがして、すごくいい人間だ。
「ナマエ!おかわりくださいっ」
「炊飯器の中見てから言え。」
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