買物



ご主人様の腕の中で目が覚めた。ううん、そうだけど、そうじゃない。玄関が開く音がした。そして足音が聞こえてきて起きた。その音にぱっちり目を開ければ目の前にご主人様がいて、とっても温かいと思ったらそこはご主人様のベッドの中で、もっと言えばご主人様の腕の中だったのです。ご主人様、獣人は確かに人間より体温が高くて温かいかもしれませんが、抱き枕にするものではないです。(あ、でも愛玩は枕にもなるのかな。)私は目の前ですうすう寝ているご主人様を起こさないよう、ゆっくり起き上がり、ドア向こうから聞こえる足音を聞いた。この足音は。


「神田ー。まだ寝てるんですか?神田ー。バ神田ー。おいバカー。」


足音はこのドアの前を通り過ぎてリビングに行った。このとんとんと静かな足音と柔らかい声は、モヤシさんだ。私はベッドから降りて、適当に服を着て、少し重い体を引きずってドアに張り付く。


「あれ?ナマエもいないんですか…。おかしいな。」


モヤシさんの声は誰もいないリビングに向けられ、こっちに戻った。足音が戻ってくる。それに合わせて私はドアを静かに開けて(ご主人様が、また寝てらっしゃる)、そこから顔を出した。その隙間からちりんと鈴が鳴ればモヤシさんの顔が私に向いて「ナマエ…そこにいたんですね。」といつものようににっこり笑った、と思えばモヤシさんは私を見て目を真ん丸にした後、勢いよく目を外した。


「ご、ごめんなさいナマエっ!あの、僕、ワザとじゃなくて…!」


何が、ワザとなのだろう。モヤシさんの顔がみるみる赤くなって、声も上擦ってて、どうしたのだろう。でもその前に、ご主人様がまた寝ているから、ごめんなさい、静かにしてください。そう伝えようとドアから体を離してモヤシさんに近付こうとすると、それを見たモヤシさんがその分離れた。


「ま、待ってナマエ!ふ、服を…!服を着てください!」


目を逸らしたまま両手を突き出されて、待って、をされた。服を着てくださいと言われて自分を見下ろすけど、服、着てます。だから、あの、静かにお願いします。しーっ、でお願いします。そう人差し指を口元に持っていってモヤシさんの顔を覗き込めば、モヤシさんは顔をもっと真っ赤にさせて、ずるずるとその場に座り込んでしまった。


「あの、だ、だからナマエ…、服を…着てください〜〜〜っ」


蹲るように座ったモヤシさんに首を傾げて一緒に座れば、背中にふわり温かいものがかかった。毛布…。ご主人様のベッドの毛布だ。と思って後ろを振り向けば、欠伸を噛み殺したご主人様が、いた。ご主人様、上、着てない。下だけじゃ風邪ひきますよ、とかけられた毛布をご主人様に返そうとすれば、くるっと軽い簀巻きにされた。(あう)


「下を履け、下を。」


下…。…上だけじゃ駄目でしたか?モヤシさんが来たから、お迎えしようと思ったんです。一応、丈のちょっと長いやつだから、大丈夫かと思ったんです。


「神田…!!」


どきっとするご主人様の半裸を簀巻きの状態で見上げていると、横から風がぶわっと吹いて、モヤシさんの腕がご主人様の首を捉えて、絞めていた。(う、うわわっ、モヤシさ…!だ、だめです、それご主人様息できなくなりますっ、本当に息ができなくなります…!)


「もちろん、同意の上…ですよね。」

「……一応。」

「一応ってなんですか一応って!!」


ぎゅうぎゅうご主人様の首を絞めつつ体をゆさゆさ揺らすモヤシさんに私の尻尾の毛が逆立つ。そ、それ以上絞めるとごしゅ、ご主人様がしんじゃい、ます!そうモヤシさんの服端を(簀巻きの中から手を出して)きゅっと握れば、モヤシさんが私を見て、見つめて、肩を掴んで、ご主人様から距離を取った。


「ナマエ、本当にごめんなさい。僕のアパートがハーフ禁止だなんて小っさい規則が無ければこんなケダモノの場所に貴女を置いたりはしなかったんですが…!!本当にごめんなさい!あのバカは人の皮を被った狼…!!」

「上等だ表出ろクソモヤシ。」


ご、ごしゅじんさまは、おおかみだったの…?モヤシさんとご主人様が髪を掴み合って目をばちばちさせてるのを眺めつつ、私は首を傾げて鈴を鳴らした。(取り合えず、朝ごはんはご主人様と、モヤシさんの分も用意したほうが、いい?)




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