03
「もちろん、同意の上だよね。神田?」
「…多分。」
「多分ってなに?多分って。」
リナリーさんからもらった服を着て、軽くお化粧をしてもらって、私達はラビさんの運転で近くの大型ショッピングモールに出掛けた。モデルのリナリーさんは変装(?)として帽子と大きな黒縁眼鏡をかけてた。そして車の中ではご主人様の隣に座ってて、ずっとご主人様に寄り添ってた。(絵になる恋人同士です。)でも、ご主人様の顔色が良くないように見えるのは、気のせいなのかな。
「…私やっぱり引っ越そうかな。神田とナマエを一緒に暮らさせるのは不安よ。」
「どうでもいいが俺の足をヒールで踏むな…!」
車で20分ぐらい。大型ショッピングモールに到着。車を出るとたくさん人がいて、家族、恋人、友達、主従、たくさんの組み合わせがいた。駐車場からショッピングモールに入ってすぐ、リナリーさんがきゅっと私の手を取った。(いつも思うけど、リナリーさんは、獣人の私に触れて不快じゃないのかな。そんなこと、思わない人間なのかな。ご主人様と一緒。いい、人間なんだな。)
「ナマエ、今日はいっぱい洋服買おうね!どうせ神田の事だから洋服とか買ってくれなかったでしょ?」
「……………。」
「あ、図星さ。」
「図星ですね。」
服…。わたし、の…?リナリーさん達の買い物じゃなくて…?
いや、ううん、その前に。
私は首を横に振って鈴を鳴らした。そしてその鈴に手を添えて、リナリーさんに伝える。
そんなこと、ないです。
ご主人様、私に、鈴とリボンを、くれました。
とても、うれしい。
ご主人様は獣人の私にとても優しいです。ご飯も、お風呂も、毛布も、名前もくれました。私は十分すぎるくらいご主人様に頂いてます。これ以上、何も望めないし、望まない。大好きなご主人様と一緒に過ごせて、しあわせ、です。
こくり、小さく頷くと、リナリーさんが私ににっこり微笑んだ。
「ナマエは優しいね。」
優しい?優しいのはきっと、ご主人様と、みなさんのことを言うのだと、思います。だって、みなさん、私が居ても、痛いことしないから。むしろ、こうやって、抱き締めてくれる。
後ろから、腕を回された。この匂いは、ラビさんだ。
「もっと望んでいいさ、ナマエ。」
すぐに耳元でラビさんの声がした。ラビさんの優しい声に耳の奥が心地いい。その心地良さに瞼が落ちそうになると、モヤシさんが私に笑って、私を抱き締めてるラビさんをべりっと剥がした。
「何自然にナマエに抱き付いてんですかラビ。どつきますよ?」
「今夜は兎鍋だな。」
「あら美味しそう。」
「すんませんでした。」
…この人間達は、どうして、私にこんなに触れて、優しくしてくれて、温かいの、かな。心臓がとてもとくとくする。私、獣人なのに、どうしてそんなにしてくれるのかな。ほらだって、みんな、おかしいって目で見てる。道行く人間が、獣人が、私がこんなに優しくされているのを見て、怪訝そうに見てる。いくら獣人奴隷禁止法があったとしても、獣人は、まだ獣人なのに。
お願い。おかしいなんて目で見ないで。このヒト達を、おかしいなんて目で見ないで。おかしいのは私だけ。獣人のくせに、人間のこのヒト達と一緒にいる私が異質なだけ。このヒト達は、何もおかしくない。ただ、温かくて、優しいだけ。
「ねぇナマエ。これ着てみて。」
私にあてがう服だって、このヒト達は何も遠慮なく当ててくるけど、人間の店員さんはそれを刺すような目で、見る。
「おー。似合う似合う。」
「ナマエは手足が長いですからね。どうです、神田。」
「まあまあ。」
このしあわせが、夢のようで怖いです。ご主人様。
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