17




夢を見ている。知らない場所に知らない空間(またこの夢)、知らない物が回りに溢れてる空間で俺はただただ寝ていた。どれくらいそうしていただろう。一人の女が現れる。俺と同い年くらいの女だ。にっこりと笑う女を俺は抱き寄せて抱き締める。女も恥ずかしそうに幸せそうにそれを受け止め、俺は────



アクマの砲弾に噎せ返る程の砂埃が舞う。まさかあちらからこっちに来てくれたとは思わなんだ。破壊したアクマの残骸に、砂埃。おかげで夢見た光景そのままだ。
俺は六幻を構え直し、残りのアクマを見据える。
でも夢は所詮夢。レベル1のアクマ達に俺が殺られるわけがなく、これからも殺られるわけがない。つまり俺の後ろにいるナマエにアクマの攻撃なんて通るわけもない。

だから、ここは、


「通さねぇっ!!」


六幻を横に打ち震い、銀色の剣気を放つ。界蟲一幻はそれぞれアクマに向かって飛び散り、アクマを貫き破壊した。アクマの数は多いが別に困った程でもない。俺一人で釣りが来るな、そう六幻を振るって破壊したアクマのボディを踏み潰した時だ。少し距離を置いて俺の前に人影がゆらりと立ち上がる。人影?違うな。俺はそれを見上げて笑った。
そこに立つのはギチギチと金属胴体を鳴らすレベル2のアクマ。


「それらしくなってきたじゃねぇか…」


一瞬盗み見たナマエは列車の影でじっとこちらを見ていた。言われた通り大人しく見ているつもりか、じっと俺を見ていた。その視線に大丈夫だ、と返して六幻を構える。レベル2の登場とは予想外だが問題ない、俺の後ろに攻撃を通さなければ何でもいい。
くすくす笑うアクマの顔は夢見た通りだっただろうか(ナマエの記憶しかない)。ズッと空気を割くように突かれるアクマの拳をかわす。アクマの拳はそれだけでなく、それが放たれれば反対側が次に来る。またその次も。俺はそれをかわしながらアクマの懐に入れる隙を探して一太刀を食らわせにいく。


(今だっ!)


空いた懐に六幻の刃を向け、そこに斬り付けてやろうとすると拳は次の瞬間、剣に変化し俺と同じ武器を形成させてみせる。今振り下ろされそうになったそれに地面を力強く蹴って後ろに下がる。しかし腕の剣は片手ではなく反対の腕も鋭く光り始め、形を作る。


「二刀流かよ…」


舞うようにくるりと回転しながら剣を俺に向けてくるアクマに舌打ち、六幻でくるくる襲い掛かる剣を避ける。しかしアクマの剣はただの剣ではなく空間さえも斬るのか、鍔迫り合いに持ち込む前に余波が俺の体を斬りつける。ぱっと飛ぶ自分の鮮血に焼けるような痛みが襲う。後ろでナマエが息を呑んでいるのが気配でわかる。


「…くるくると、うざいやつだ」


回転斬りが一通り済んだのか、回り終わったアクマに六幻を下段に構えてアクマが次の攻撃を構える前に片腕を斬り上げる。更に斬り上げて背後を取った次に振り上げた六幻を一気に振り下げてもう片方の腕を斬り捨てた。先程まで俺に血を流させた剣、二口が落ち驚きの顔を見せるアクマを尻目に最後の一振りを。心の臓を貫き、六幻を手首で返し抉った。


「終わりだ」


手に残るのは硬いボディを抉った鈍い感触。後、爆発音。
巻き上がる煙と毒ガスに一回咳き込み、それが晴れてアクマの残骸を見下ろし後ろを振り返った。


「神田君っ!」


ナマエが、いた。
爆発にも何にも巻き込まれていない無傷のナマエが列車の影からふらふらと走り出してきて、俺に手を伸ばしていた。俺はそれに小さく笑って六幻を突き付けた。ぎらりと光る刀身がナマエを捉える。


「俺の怪我、吸わないと約束しろ。」


突き付けられた六幻にナマエはハッと息を詰まらせたが、次の俺の言葉にナマエはふにゃりと顔を緩ませた。


「吸わないなら、来い。」


と言えばナマエは嬉しそうに笑って声を上げた。


「約束する!」


終わった。任務も、俺の悪夢も。
ナマエは傷一つもない。
今も、これからも。

走り寄るナマエに六幻を納めて手を取ろうとした。


「っ!」


瞬間、俺の顔横を通る風。
まさかと振り返る時間はいらなかった。


「…ナマエ…ッ!」


目の前で、ナマエが貫かれた。


二口の剣がナマエを一度、二度と貫き、鈍い音を残して砂と化した。さらり、と砂塵が舞った。




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