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例えばナマエが戦場サポートが出来るエクソシストであったら、今俺と一緒に列車に揺られているのは当たり前だったのだろうか。貸し切った列車にナマエは少し緊張しながらも「エクソシストってこんな事も出来るんだね!」「アホ。お前が秘密の存在だから貸し切ったんだよ」「神田君秘密の存在引きずるね!」流れる窓の風景に楽しそうにしていた。大まかに分類すればナマエはサポートタイプのエクソシストだ。ただ、サポートとしての働き所は戦い終わった後という所だ。ナマエが戦闘中でもサポートができる、また違った能力だったらこんな使い捨てのような扱いを受けずに済んだのだろうか。


「アクマの殲滅って大変?」

「別に。足手まといが居なければ何とも。」

「じゃ、大丈夫だね」

「お前に言ったんだよ」


薄く笑えばナマエも笑った。
ナマエを任務地に連れていく。それはあの夢と重なる絵だった。リナリーの予知夢やら警告やらそんな言葉が頭をぐるぐると駆け回ったのにどうして自分はコイツを連れてきてしまったのだろう。あの時、ナマエに抱き付かれて『お願い。連れてって。』と言われた時、俺はナマエを抱き締め直して頷いていた。気付いた時はもう遅く。顔色の悪い顔で「ありがとう、嬉しい」と言われてしまったらやっぱり駄目だなんて言えなくなってしまった。どうして抱き締め直したのか、どうして頷いてしまったのか。その理由は知っているようで知らなかった。いや、知らないフリをしているのだろうか。ナマエはもう、これが終わったら教団から逃げるから。俺の前にはもう、姿を見せなくなるから。
最後の、思い出だから。


「神田君。僕達が初めて会った頃って覚えてる?」


列車の窓から流れる風景にはもう落ち着いたのか、ナマエは大人しく座り直して真正面の俺に向き直った。


「………お前の弟が死んだ時か」

「あ、そっちじゃない。医務室の方。えっと、僕が極秘任務とか言ってた時なんだけど…」


初めて会ったって…それはお前じゃなくてナマエとしてって事か。「それでさ、」と続けようとしたナマエに舌を打った。


「おい、面倒だ。ナマエじゃなくてお前の名前教えろ。」

「え…僕?じゃない…わ、私…?」


そうだお前だ。『僕』が言い直らないのは理解した。なら姉の名前を自分で言え。そう言えばナマエはちょっと考えた後、ちろりと俺を見上げるようにして大きな瞳に俺を映した。


「言ったら…私の名前、神田君呼んでくれるの?」

「……」


当たり前だ、じゃなきゃ聞かねぇよと言おうとした時だった。ドドンッと音と共に列車ごと横に吹き飛ばされ、体が壁に打ち付けられた。すぐにそれが目当ての物だと理解できたのは長年の経験から言えるものだ。次に来る衝撃の前にナマエの体を抱き寄せて衝撃を和らげてやる。


「ッ!!」


次が来た時には列車がレールから外れ大きく横転し、タイミングを見計らって窓を突き破り外に出た。視界を覆う粉塵の先に厳つい球体が目に入り、口端を上げた。


「まさかそっちから来てくれるとはな。」


ナマエを抱き締めたまま状況を計る。列車を操縦していた奴は…駄目だ。列車も横転して動けない。ナマエは目をぎゅっと瞑って俺にしがみ付いていて、俺は投げ出された操縦者を見せないよう抱き寄せた。視界はあまり良好とは言えない。レベル1のアクマが何体か。

(夢のロケーションそっくりだな。)

不自然に笑ってしまった。


「か、神田君…」

「大丈夫だ。テメェがアイツ等と逃げるまで守ってやるよ。」


服に掴まるナマエの手をほどいて列車の影に押し遣った。不安そうにこちらに目を向けるナマエの頭に手を乗せ、浮遊するアクマを見遣る。


「俺が戦うところ、見たかったんだろ」

「う、うん」

「ならここで大人しく見てろ」


その後、ちゃんとあの男と看護婦の元に返してやる。そしてコムイだけじゃ心許ないから逃げる時は俺も協力してやる。だから、そんな顔すんな笑え。そうぐしゃぐしゃと頭の手を動かしてもナマエは笑わなかった。今にも泣きそうな顔だ。俺を引き止める泣き顔はそのままに、イノセンスを発動させる。
心配いらねぇよ。死なせない。お前は、死なせない。
まったく、一体どうして何をそこまで俺をかきたてるのか。脳裏に夢で見た、幸せそうに笑うあの女の顔が浮かんだ。本当、お前にしか見えない。お前にしか見えないんだ。あれもリナリーの言う予知夢か警告とか言うなら、その笑顔、いつか俺に見せてくれるんだろう?その馬鹿みたいな笑顔。


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