05




歩き辛そうにしていたあいつを見てやっぱりという気持ちが大きい。リナリーの話を聞いて確信できたというよりも、昨夜辛そうにしていた姿しか思い付かなかった。


「探索部隊など治さなくて良い。本番に使えなくなったらどうする。」

「…はい」


昨日の様子を見る限り(俺の考えが外れていなければ)アイツは俺以上の再生能力がある。しかし次から次へと何かしら新しい傷を作っているだろうアイツに、何となく味が悪くなる。何の味が悪いのかと言われると返答に困るが、とにかく悪いのだ。


「くれぐれも己の役目を忘れぬよう。見送りは結構。」

「はい」


多分、アイツの活動時間は皆が寝静まった深夜。そして医療班フロアだ、とその医療班フロアを歩いていると聞き覚えのある声がして身を隠した。どうしてコイツがここにいるのだ、と長身の男を盗み見る。


(…ルベリエ。)


鼓膜奥に(無駄に)響く皮靴の音を聞いて目を細める。その場を去っていくルベリエに何用だったのか(ましてや医療班フロア)、とその場に残る二人を見つめる。小さな頭と、白衣。

あいつと、司令室にいた男だった。

遠ざかった足音に男は頭を下げるの止め、小さな頭を元気なく落としているそいつに向き直った。


「…もう行ったよ」

「うん」


何処か慰めているようにも見える男のその雰囲気と声音はとても優しかった。小さな頭を撫でる手も、掛ける声も一つ一つ優しい。歳もそう離れていない二人は恋仲か何かと見えそうだが、恋仲ではない何かに見えた。
一方あいつはルベリエが消えた先をむっとした表情で睨んでいて、そんな様子に男は苦笑してそいつの背中に手を添えた。


「長官の言う通り、探索部隊は治さなくていいんだよ。キミの体は…」


強いて言うなら、兄妹か、父娘か。どうもそんな風に見える二人の会話に耳を凝らしていると、ふと男の言葉が途切れた。その事に俺は小さく舌を打つ。男がこちらに気付いたのだ。出てこい、と言わんばかりの視線と少しの威圧に俺は諦めて壁から身を離す。


「こんな夜更けに何やってんだ」

「…キミこそ、何用かな」


男は背中でそれを隠すように、いや、何処か守るようにして俺を睨んでいた。その背中でソイツは俺を見て、先程のむっとした表情を引っ込めて嬉しそうに笑った。そしてとんとんと男の背中を叩いていて背中の防壁を崩そうとしている。


「大丈夫だよ、ドクター。こんばんわ、神田君」


いつの間に名前を…、と思ったが、考えてみれば知る機会などたくさんあった。医務室には患者のプレートが掛かっているし、コムイとの接触は前からあるように思えたし(コムイの口振りから)、何よりルベリエと一緒にいた。調べればすぐわかることだ。俺はドクターと呼ばれた男の鋭い視線を感じながらも、その背中向こうに話し掛ける。


「傷を治したのはお前だったんだな」


しっかりと立つその姿に昨夜の歩き辛さは見当たらなかった。そいつは俺の言葉に「やっぱわかる?」と苦笑して、やはり男の警戒心が剥き出しになっていく。


「そういうイノセンスなんだ」

「ナマエ君、」


諌めるように男が言った言葉はそいつの名前だろうか。ナマエ、と小さく呟いてみたが妙な違和感が口元に残った。しかし呟いた俺の声になのか、それとも男になのか、アイツ、ナマエはにっこり笑った(よく、笑うやつだ)。


「大丈夫、あの人は大丈夫だから。〜〜もう、睨まないで!」

「睨んでないよ。怒ってるんです」

「ドクターそれ世の中では睨んでるって言うんだよ!」


やはり、仲は良いようだ。ナマエは男をばしばし叩き、男はその腕を取って引き摺るようにして俺に踵を返した。ナマエはそのまま「わ、ドクターッ」と連れられて行き、俺にひらひらと手を振っていた。


「おやすみ〜、神田君」


最後に男が俺をもう一度強く睨んでいたが、ずるずると引き摺られながらも手を振るナマエに呆れの溜め息が出る。よくもまぁ、あんなへらへらと笑う。


「…ナマエ…」


そして、何となく呟いたアイツの名前にはやはり妙な違和感が残った。



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